カチューシャ

ヒトラー最後の代理人のカチューシャのレビュー・感想・評価

ヒトラー最後の代理人(2016年製作の映画)
5.0
アウシュヴィッツ収容所所長のルドルフ・ヘースの尋問を眺める映画。84分と見て不安だったけれど、そんな不安は全部ゴミ箱に捨てちゃえだったな。

台詞は尋問パートにほぼ集中していて、本で読んだ方がいいのでは?というほどの情報量(だから時々聞き逃したが、己の知識と良いところでくる追加質問で補填できた)だけれど、それ以外が静か。

静かというのは無音なのではなく、静かな空間に響く靴音、パイプを燻らす音、ペンを走らせる音、息づかいで表現されている。もう素晴らしい。これだけで緊張感も重苦しさも淡々と進む感じも表現されている。こういうの大好き。

エンドロールの時の音、とても気になるんだけれど、やっぱりアウシュヴィッツへ向かう音の再現なのかな。今のオシフェンチムでの音なのかな。もう、心を持っていかれたよ。

内容も、ヘースが獄中で書き残した手記をベースにしていてリアル。ナチの「命令システム」と本人の信仰心(あるいは家族の信仰心をベースに育った環境)が合致して歯車化したことがよく表れていた。

アイヒマンと同じく中佐まで出世した人で、彼らの交流がほんの少し描かれていたのも、卒論でアイヒマンを書いた身としては良かった。ヘースの方が少し年上で、ずっと順当に出世した古株だから、アイヒマンとは対等ではなかったかなと思っていたけれど、ものすごい差はなかったんだなと思った。その辺は脚色かもしれないけれど、あり得ない脚色ではない。その辺、この映画は信頼できる。

ここから文句なんだけど、何で「ヒトラー最後の代理人」とかいう邦題をつけるの?約束したじゃん!もう「ヒトラー」ってつけてナチ映画アピするのやめようって。

イスラエル製作のナチ映画ということはもう重みが違うわけで。彼らの思いを尊重したいのよ。原題の"The interrogation (尋問)"で足りないなら「ルドルフ・ヘース」あるいは「ルドルフ・F・ヘス」を入れればいいんじゃないの?ダメなの?

これはナチ映画の中でも「ある程度見てきて知識のある人」用だと思う。そうじゃなきゃ途中で置いて行かれるんじゃないかな。説明はないから。

だからこそ、ヒトラーとつけたら「何となくナチ映画でも見てみるか。おっ、ヒトラーって書いてあるからこれやろ観たろ」みたいな気持ちで観て挫折する人を生んでしまわない?と私の中の老婆が心配している。

じゃあ、文句終わるから。約束ね。もうヒトラー以外の人にスポットライトを当てたいけれどちょっと弱いかなって理由で邦題に「ヒトラー」を入れないでね。