公開当時以来の再見。某映画における少年Aの扱いに腹が立ったので……。人を信じる“血を吐きながら続けるマラソン”のような困難さに真正面から向き合っており圧巻。安易に人様を白黒で区別、断罪カマしてハイ一丁上がりとする類とは格が全然違う。これを観たら……『ナントカ世界』でしたか?あんなんお子様ランチとしか思えないんだよな。一見何の関連もない、同時代に発生した複数の事件をザッピングしながら罪の在りかを丹念に探っていく。出てくる人々が皆印象的だ。仕事場の寮に住まう中卒のパイセンは、いかにも粗暴で信用出来ぬ元ヤン。新入りが入ってくればガサ入れと称して勝手に自室に侵入、私物を激撮。手が出る時は異常に早い。後輩従えて王様気取り。一般的フィクションの基準からすれば糾弾されるべき「悪人」である。でもゲロ吐いて玄関でブッ倒れているところを介抱されれば感謝だってするし、オフの時はやんちゃしながら場を盛り上げてくれる。気分の上下が激しいだけで別に死んで欲しいとまでは思えない、そこら辺の工場にゴロゴロいる男なんだ。俺の職場にもいるわ。医療少年院で働く先生は、仕事に没頭して娘と向き合う機会を失う。久々に会った娘は「バケモノ共を相手にしている癖に」と容赦がない。犯罪を犯した息子の父親は、彼が出所し嫁さんを作りあまつさえ身籠っていることを決して許しはしない。出来ない。「他人の子供を殺しておいて、自分の子供が生まれたら喜ぶのか?」。彼ら彼女らはもちろん善人でも悪人でもない。この曖昧模糊とした現実(リアル)の手触り、俗に言う「人間を描く」とはこれなのだ。瀬々敬久は本当に誠実な映画作家だと思う。ラストショットにおいて成される時空を超えた切り返しから分かる通り、描いているのは普遍的な祈りであって、実際に酒鬼薔薇聖斗がどのような人物であったかはそんなに関係がない。BLのような隠微さがあるのも個人的には大変有難いです。夜の公園で押し倒して袖まくる。死ぬ死ぬ。