記憶の回廊を漂うような水路の移動ショットが、東京の街を彷徨う男と女の運命との共鳴によって、流麗な波紋が投じられていくかの如く、静謐な情感の移ろいにひたすら心地良さを感じる。
正月の晩のシーンで、雛子(前田亜季)がバケツに水を汲みに行ってから室内に入るまでの芝居の撮り方が素晴らしく、成瀬的な奥床しいエロチズムが内在していた。
他にも移動を繰り返しながら、どこへも行く当てのない二人の佇まいに『浮雲』を彷彿とさせ、諦念に至る雛子の眼差しに凡ゆる成瀬映画の女性像を想起させる。
時系列が解体され、物語的に説明不足な部分が多々あるので、一度みただけでは分からない事が多いが、そんな映画があってもいいのだと新作映画をみて久々に感じた。
@ユーロスペース
