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大麻が救う命の物語のこけここのレビュー・感想・評価

大麻が救う命の物語(2018年製作の映画)
2.5
【この映画について他者と議論する意思はない為、コメントをされても返信致しません】
大麻草抽出物に含まれるTHCとCBDのがん細胞に対する効能についてと、大麻を使用しながら小児がんと戦う家族の映画。
政治的観点からでなく、日本のいち医療関係者として鑑賞した感想を述べる。
感想は個人の発言であり、所属先等には何ら関係ないことを明記しておく。

大麻草抽出物の癌細胞に対する作用については非常に興味深いと感じた。
がん細胞のみにアポトーシスを促進するのであれば、これまでの化学療法(作中で言うキーモ)などの正常な細胞を巻き込んだものから治療の様相が大きく変わるであろう。
しかし、大麻草に対するこれまでの規制により、大麻草抽出物についての研究があまり進んでいないのが現状のようであった。

大麻草抽出物の薬効についてはがん治療のみならず様々なものが報告されている。
実際、米国で2018年にカンナビジオールが含まれる抗てんかん薬、エピディオレックスが医薬品として認可され、大麻草抽出物は治療薬として徐々に利用されるようになっている。
しかし、この作品の中では大麻草抽出物を使用することによる重篤な副作用や、品種や使用期間による依存性の差など負の側面がほぼ語られていないことが気になった。
現在、がん治療に使用されている薬剤や放射線には副作用があり、苦痛を緩和する麻薬には副作用と依存性がある。これを踏まえて化学療法にマイナスの印象を持つ家族がいても不思議ではない。実際癌治療は患者本人にとっても家族にとっても過酷なものである。
しかし、大麻草抽出物の副作用や依存性が明確に証明されていなければ、現在行われている化学療法よりも医療用大麻が優れていると断言することはできない。

現在、日本でもエピディオレックスの治験が一部の大学病院で検討されているなど医療用大麻についての臨床実験が進められている。しかし、未だ不明な部分も多い為、我が国では慎重に議論がなされるべき問題だと感じる。
この映画のみでは医療用大麻はメリットがデメリットを上回るとは判断できない。また、大麻草抽出物のみの治療についての詳しい話はなく化学療法に使用される薬剤ががんにどの程度効果を与えたかも分からない。
そのため、現時点では諸手を上げて医療用大麻を歓迎することはできず、環境を整え研究を進めていくべきだと感じた。

また、最後に患者の親がマムコロジストと名乗り独自に大麻草抽出物を生産したことは衝撃であった。合法である米国であっても非専門家の元で生産されたものがなんの審査もされず自由な価格で市場に出回る状況はさまざまな面で非常にリスクが大きい。彼女の活動が医療用大麻に関する研究の足を引っ張ることがないよう、祈るばかりである。
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