くりふ

アリアのくりふのレビュー・感想・評価

アリア(1987年製作の映画)
4.0
【オペラ幕の内弁当】

再見したいと思っていたら、図書館でDVD発見!

ミュージック・ビデオの方法論で、当時旬の監督たちに、好きなアリアを選ばせ各々映像化したオムニバス。

オペラの知見は今も殆どないですが、本作は見易くて、当時はかなり嵌ったものです。改めて、各編の松竹梅付けなど。

●ニコラス・ローグ「仮面舞踏会(ヴェルディ)」 ⇒梅

オペラの物語と史実の暗殺事件をシンクロさせており、双方を知らないと、本当の面白さはわからないのでは。監督夫人テレサ・ラッセルに男装させているが、だから何?という印象。どうせなら、全員女性にしてヅカモードにすれば華やかなのに。

●チャールズ・スターリッジ「運命の力(ヴェルディ)」 ⇒松

車泥棒を重ねる子供たちの運命。この監督の、子供の撮り方は独特だ。元歌は、要は聖歌。が、物語はシニカル、しかしリリカル。子供たちのマリア像、テレビ、焚火…を見つめる視線はきっと同じ質で、冷めている。

●ジャン=リュック・ゴダール「アルミードとルノー(リュリ)」 ⇒松

元歌は、十字軍兵士と、彼らを陥落させる魔女の物語。ゴダール脳で現代版に変換されており、バカボンパパに説教されているようでもある。

若く最強の全裸を見せつけても、自身の最強筋骨にしか興味を示さぬ男たち。エロティックなのに、全てが乾いてゆく。効かぬ誘惑…そりゃ女は叫ぶでしょう。映画として、飛びぬけて躍動している一本。

●ジュリアン・テンプル「リゴレット(ヴェルディ)」 ⇒梅

オペラをからかっている一本。喜劇のようだがまったく笑えない。オペラをからかいながら、イギリス人監督がアメリカ人をからかっている。この監督はこの後も、あまり面白い映画撮らなかった気がする。

●ブルース・ベレスフォード「死の都(コンゴルト)」 ⇒梅

元歌には忠実な展開らしい。モデル風男女が脱ぎながら歌い続ける。歌をやめると、恥ずかしいことやっているのに気付いてしまうから、マッパになるまでそれは終わらない。

脱ぎ切るのはエリザベス・ハーレー。彼女のデビュー作らしい。ふっとい眉毛が変!しかし人物より、ベルギーらしき“石の町”の寒々しき余韻がより、残ります。

●ロバート・アルトマン「アバリス(ラモー)」 ⇒竹

オペラの舞台ではなく、客席にフォーカスした逆転の発想は本作イチ!…が、面白くはないんだよね…。客席をキ○ガイだけで満杯にして、おっぱいも登場させるが、間が持たない。一枚の写真で充分表現できるのでは?と思ってしまった。

●フランク・ロッダム「愛の死(ワーグナー)」 ⇒松

乾いた荒野からベガスのネオン洪水へ。一転して孤独な夜明け。アメリカンな情景が“トリスタンとイゾルデ”に見事はまっている。このカップルが出す結論は醜いが、そうせざるを得ない瞬間は描かれている。

こちらもブリジット・フォンダのフィルムデビュー作らしい。肢体の初々しさが、ラストをより哀しく響かせる。一方、女所長イルザこと、ダイアン・ソーンが意外な姿で一瞬、カメオ出演しているのが謎。

●ケン・ラッセル「トウランドット(プッチーニ)」 ⇒松

“誰も寝てはならぬ”だけで引っ張る異色作。極彩色だがチープな三途の川を、渡るかどしよっか考え中…に陥る女のお話。CGなど使わずとも、これだけ幻想的な映画は撮れるのだ、と改めて感激する。

主演女優は当時、ペントハウス誌でビーバーショットを披露していた方。そんなキャスティングもラッセルらしく、大好きな一編。懐かしき、イナバウアー荒川が金メダルを獲った時の曲でもあります。

●デレク・ジャーマン「ルイーズ(シャルパンティエ)」 ⇒松

詩人のつくった映画だ、と本気で言ってしまえる佳作。化石と化した婆さんが、初恋に萌える少女に本気で見えてしまうという、たいへん優秀な詐欺映画でもあります。

大粒の花吹雪に透けて見える永遠。ティルダ・スウィントンのお宝映像作品でもあります。

●ビル・ブライドン「道化師(レオンカヴァッロ)」 ⇒梅

各編をブリッジしていたトホホ展開が、最後で実を結ぶものの…。

『アンタッチャブル』で、デニーロ・カポネが泣きながら聞いていた曲を、昔エイリアンに腹食い破られたキャリアを持つ、ジョン・ハートが泣きながら歌い上げる。涙のわけは、お腹の古傷が痛むから?桟敷席から彼を見つめるクール・ビューティ、ソフィー・ウォードだけが、おそらく真相を知っている。

<2019.8.18記>
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