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Nefta Football Club(原題)のAZのネタバレレビュー・内容・結末

Nefta Football Club(原題)(2018年製作の映画)
4.0

このレビューはネタバレを含みます

2020年のアカデミー賞短編映画部門にノミネートされたハートウォーミングコメディ。
フランスの映画監督イブ・ピアがメガホンを取る17分ほどのショートフィルムだ。

フランス・チュニジア・アルジェリアの合作作品で、舞台はチュニジア南西部の田舎町ネフタなので登場人物はアラビア語で話す。
正直、何を言っているのかは英語以上に何一つ分からないのだが、細かい部分はともかくおおよそのことを把握するのに不自由はない。


ネフタの町では少年たちがサッカーに夢中になっている。まともに白線も引かれていないような荒れたフィールドだ。貧しい環境であることは見て取れる。
そしてそうした環境では身近に危険な犯罪も潜む。

町の周りに広がる荒野を兄弟がバイクに2人乗りで家路についている。ノーヘルだ。
兄はバイクを転がしたりタバコを吸ったりしているが、中学生くらいに見える。
弟は小学校低学年くらいだろうか、可愛らしい声と動きで魅了してくる年齢だ。
ネフタの周りの荒野や砂漠は観光スポットでもあり、この辺りは「スター・ウォーズ」のロケ地にもなっている。
そう思うと岩陰からジャワが飛び出してきそうな雰囲気がある。
代わりに出て来たのがノリノリの音楽が流れるヘッドフォンをつけたロバだ。
弟はロバとヘッドフォンの音楽に夢中になるが、兄はロバがぶら下げていた荷物に大量のコカインが積まれているのを見つける。
どこかの間抜けなギャングがコカインを運ばせていたロバを見失ったのだろう。
兄は急いでコカインをバイクにつけたリヤカーに積み込み、近所のワルに売りさばいて一儲けしようとするが……。


そんなちょっとダークな、貧しい生活の中で自然に子供に近寄ってくる犯罪を匂わせる始まり。それでいて物語は予想外にハートウォーミングな着地をする。

翌朝、ワルをコカインの隠し場所に案内すると大量にあったコカインはすっかり消えてしまっていた。
コカインが何なのかまるで理解していなかった弟くんがサッカーを楽しむ友達のところに一生懸命持ち運び、それを使ってキレイなフィールドラインを引いてしまったのである!

これには兄もションボリ、ちゃんとしたフィールドでサッカーを楽しめた子供たちはニッコリ。観客には痛快な笑いがもたらされる。
モノは使いよう、絶対的な社会の悪であるコカインをこれだけ心温まる小道具に変えて子供を幸せにする風景にしてしまった魔法のような作品だ。

作中に登場して微笑ましいインパクトを残すのんびり屋はロバ(Donkey)なのだが、馬との交配種であるラバは英語でMuleとなる。
奇しくもクリント・イーストウッドの「運び屋(Mule)」にも通じる。

少し大人びて強かに生き抜くための悪さを発揮しようとする兄と対照的に、無邪気な弟くんが眩しい。
兄からは「洗濯洗剤」と説明されたコカインを、「洗剤でも盗んだもの持ってたら怒られちゃうよなあ」と思って使ってしまう。
使うのもダメだけれども、これで証拠隠滅を図る弟くんは責められない。結果オーライだ。

もちろん今作で描かれる生活は日本の環境とはまるで違う。
それでも、何もない砂漠の広大な風景も相まって何をやっても気楽だった少年時代の景色がどこか重なっていく。
自然と笑顔でエンドロールを迎えてしまう嬉しいストーリーだ。

惜しくもオスカーは逃したが、2020年の短編映画部門ノミネート作では一番好きな作品だった。
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