Tanuki

ユダ&ブラック・メシア 裏切りの代償のTanukiのレビュー・感想・評価

4.2
やっと見れた。犯した罪を見逃してもらう代わりに、ブラックパンサー党に潜入してFBIに情報を流すビル・オニール。彼が自分に失望し、恐怖に縛られ「裏切り者」であり続ける理由を、社会構造的な差別に求める話だった。胸に重いものが残るけど、良い映画。

ブラックパンサー党のカリスマリーダー、22歳でメンバーの信頼を集めるフレッド・ハンプトンを、ダニエル・カルーヤが迫力たっぷりに演じる。もう覚悟を決めてしまった人の説得力。ビル・オニール役のラキース・スタンフィールドも良かった。追い詰められ怯えたあの目。

最近、役選びに信頼感が持てるジェシー・プレモンス。今回も良かった。ビルを利用し脅迫する白人FBI捜査官の役で、差別者の象徴にはなってるんだけど、でも冷酷になりきれず葛藤も抱えてるように見える。複雑な表情の演技がすごい。

彼が徹底した悪人じゃないからこそ、余計に絶望感が深まる。彼一人どうにかすればいい問題ではない。警察組織、ひいては社会全体の問題であり、ビルの苦しみを取り除くためには、フレッドやブラックパンサー党のような行動力が必要なのに、ビル本人がそれを阻む矛盾。

強硬的なブラックパンサー党による暴力を、たとえそれが追い詰められた末のものであっても、正統なものには見えないような描き方も印象に残った。白人警官一人を殺しても社会は変わらない。やはりそれは構造的な差別の問題だから。
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