福福吉吉

ユダ&ブラック・メシア 裏切りの代償の福福吉吉のレビュー・感想・評価

4.0
◆あらすじ◆
1968年のシカゴ、FBIと身分を偽り車を窃盗したウィリアム・オニールはFBIのロイ・ミッチェル捜査官からブラックパンサ―党に潜入し、FBIに協力すれば窃盗を見逃す取引を持ちかけられ、応じる。ブラックパンサ―党に潜入したオニールは党の副議長、フレッド・ハンプトンに出会い、彼と行動をともにするようになる。党の情報を流して報酬を得るオニールだったが、フレッドたちと行動することで身の危険を感じ始める。

◆感想◆
FBIの内通者として黒人の活動組織に潜入した男の姿を描くとともに、組織のカリスマ指導者の活動も併せて描いており、当時のアメリカの黒人差別の実態を表すものになっていました。

ウィリアム・オニール(ラキース・スタンフィールド)は元々、特に政治信念など無い人物でしたが、車の窃盗をきっかけにFBIのロイ・ミッチェル(ジェシー・プレモンス)のスパイとしてブラックパンサ―党に潜入します。オニール自身は俗物であり、利己的に動く人物として描かれており、彼の心情はあらゆるところに現れていて非常に分かりやすいです。個人的にはよくバレなかったなと思いました。

一方、ブラックパンサ―党の副議長であるフレッド・ハンプトン(ダニエル・カルーヤ)はカリスマ性があって、演説での過激な発言も聴衆には響くものになっていて、危険ながら魅力を感じました。本作で描かれる中で白人警官たちの黒人に対する横暴は目に余るものがあり、フレッドはそれに対抗するためにもより強いメッセージを黒人社会全体に訴える必要があったから、発言も過激になっていったのだと思います。その一方でフレッドは他の黒人組織や少数勢力にも協力を呼び掛けるなど思考に柔軟性があって、彼の指導者としての先見性や器量の大きさを感じさせるものがありました。

ストーリーが進行していくとともにオニールは自身のみの安全ばかりを気にかけるようになり、一方、フレッドは黒人の地位向上という大きなものに目を向けるようになっていきます。これが非常に対照的であり、2人の格の違いを感じさせるものがありました。しかし、命を狙われる恐怖は誰にもありますし、オニールが怖がるのも普通だと思いますが、フレッドの肝が据わっているため、よりオニールが小さく見えてしまいました。

本作は実話に基づいた作品ということで、1968年当時のアメリカ社会の現状を丁寧に描いていて、その映像はとてもリアルに感じました。暴力により意見を通すことは悪いですが、そこまでしないと意見を発することすらできなかったアメリカの現状がよく分かりました。最後まで興味深く観ることができました。

鑑賞日:2023年12月20日
鑑賞方法:CS ムービープラス
(録画日:2023年3月6日)
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