映画おじいさん

おへその大将の映画おじいさんのレビュー・感想・評価

おへその大将(1962年製作の映画)
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バラック集落の住民に愛される医者が主人公で、このタイトルなら『とんかつ大将』(1952年 川島雄三)を意識していないはずがないでしょ、と思ったけどそうでもなさそな小品。

大阪砲兵工廠跡地に鉄屑を求めて集まった実在の集落が舞台。警備をかいくぐり鉄屑を失敬する際の仲間内の合図「ウッホッホ」みたいな発声が西部劇のアパッチ族みたいなのでアパッチ族と呼ばれていたと。その発声が映画後半ちゃんと出てくる。皆でマッコリを飲むというシーンも出てくる。

話のひとつひとつは大したことなくてすぐに忘れてしまいそうな群像劇だけど役者が素晴らしかった。フランキー堺は普段の出しゃばりを封印し、山崎努も親が反対する恋人と交際する普通の若者で逆に良い。
中でも集落の住民のリーダー格、山茶花究が最高。今まで観た中で一番良かったかも。
恐妻ネタと便意ネタを連発するコメディリリーフのアチャコも当然◎。

彼ら住民が通天閣の通りを大勢で闊歩するところを高い位置からのズームでゲリラ撮影しているシーンは迫力あった。騒ぎにならなかったのかな。

上記したように細かい筋書きは既に忘れ始めているけど、本作の何が素晴らしいかと言えば、全体を通して流れる「何とかなるやろ」グルーヴでしょう。ポジティブになれる要素ゼロなのに全くへこたれない住民たち。
重い病の住民のために回転式バラックを建ててやるなんて笑いながら泣ける。
住民全員が集落を飛び出したものの行くところなんてあるわけないよとアッサリ戻ってきてしまうところとかも。

最後に山崎努の妹が妊娠して戻ってきた時に、腹の子は誰の子や!と騒動になりそうだったけど、ずばり「何とかなるやろ」で済ませていて感動した。
こういう感覚が今の世の中には足りないと思う。というか、こういう感覚を持つことが許されないような今の社会にうんざりする。