おかだ

POP!のおかだのレビュー・感想・評価

POP!(2021年製作の映画)
3.5
コンペをちぎった令和の奇作


音楽と映画の掛け合わせをテーマとした若手クリエイターによるコンペ、「MOOSIC LAB」の2020-2021における作品部門と主演女優部門でグランプリを攫った話題作、「POP!」。

「おんなのこきらい」や「眉村ちあきのすべて(仮)」など、これまでも大概、愉快で豪快かつ奇妙な作品を輩出してきた同映画祭ですが、今回は特に珍妙な作品を生み出してくれました。

なので感想としては、とにかく気味の悪い映画で、面白くはないしお世辞にも技巧的が特に優れているわけでもないが、やたらと印象に残る快作だったと思います。僕は好きです。


あらすじは、地方のチャリティー番組でイメージキャラクターを務める19歳の女優の卵なんだかよく分からない主人公が、20歳になるにあたっての葛藤だかなんだかよく分からない感覚を抱きながら過ごしていくというもの。

主演女優賞にも輝いた主役には、「アルプススタンドのはしの方」でも何ともいえない表情で作品に厚みを加えてくれた小野莉奈。


冒頭、強烈な違和感を孕んだ小野莉奈のオーディションシーンから、よく分からないインサートを挟んで時系列が変わり物語スタートする。

そこからは、病的なまでに生真面目ゆえ、社会に上手く溶け込めず孤独感を抱えて暮らす小野莉奈の公私が、ぶつ切りのシーンのモンタージュにより淡々と描写される。
しかしタイトルの「PoP」とは180度異なった、陰鬱極まりない画面と物語が延々と展開される薄気味悪さは妙にクセになる。
ちなみにこのタイトルのPOPは、とある英単語のイニシャルであったことがラストで示されるのだが、まあそれはどうでもいいや。


まずはとにかく生真面目で、いわゆる社会に蔓延る欺瞞や不寛容さとの擦り合わせが上手くできない19歳の彼女が、20歳成人という時期をどのように迎えてどう折り合いをつけていくかという部分を、シニカルかつ映画的に描いていく試みが、全体を通したテーマとして薄ら見てとれるのが面白いと思う。

20歳、つまり大人のモチーフとして選ばれた自動車。
あの駐車場に捨てられた水色の車がやがて発車するまでの物語。そう表すと聞こえはいい。

また、社会の欺瞞という漠然とした概念をまさに体現したチャリティー番組の、そのイメージキャラクターに彼女を据えた意地の悪さと、だからこそ終盤のケツとハートの狂った問答も迫力があって良い。
そこに至るまでの、爆弾魔との共通項がやがてひっくり返ってしまうことで転換を迎える小野莉奈の内的描写の可視化も面白いと思うし、爆弾魔の絶妙に恐ろしいビジュアルも今作の白眉か。

とはいえしかし、いくら何でも抽象的かつシュール路線すぎる。
居心地の悪すぎるロングテイクでのやりとりや、ユングの言う夢で見るような悪夢的な謎インサートの数々も含め、さすがに尖り過ぎ。


ということで、全体的に光る要素が多く、良くも悪くも印象的な今作。
個人的には夜の映画館で、ちょっと引きながら観るぐらいがちょうど良い楽しみ方ではないかと思いました。おススメです。
おかだ

おかだ