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チェスナットマンのEikeのレビュー・感想・評価

チェスナットマン(2021年製作のドラマ)
4.2
デンマーク産Netflixオリジナルシリーズ全6話。
コペンハーゲンで起きた連続猟奇殺人事件の闇に女性刑事ナイーア・チューリンと彼女の新しいパートナー、マーク・ヘスが挑む…。

コペンハーゲン郊外の公園である朝、女性の遺体が発見されます。
被害者の片手は切り取られており、遺体の側にトチの実で作られた人形が。チューリンとヘスはその人形が犯人の何らかのメッセージであると判断しますが、鑑識によってその実についていた指紋が1年前に誘拐され、未解決となったデンマーク厚生省の大臣、ローサ・ハートゥングの娘の物であることが判明。一気に緊迫感が増してきます。
そして新たな事件が。

果たしてチェスナット・マンの狙いは。そしてローサの娘、クリスティンは果たして生きているのか…。チューリンとヘスは幾多の障害に行く手を遮られつつ真相に近づいていく…。

面白かった。原作があるということで、きっちりとした物語のベースが組み立てられていて安定感があるのがよいですね。
それと全6話と言うのも間延びせず、スパッと見終えることのできる分量で好感度が高い。
それでいてNetflixらしく一話あたり60分近くしっかり尺が取られている訳でちゃんと登場人物の息遣いや苦悩も掬い上げており、ドラマとして見ごたえを生んでいるのが何よりうれしい。
猟奇的なモチーフを含んだお話であり、それに類した描写も出てきますが「サイコホラー」という印象はそれほど強くありません。
それは犯行の猟奇性よりも事件解決に奔走する二人の刑事たちの姿に焦点をあてているから。したがってこの二人の主人公に興味を持てるかどうかが本作を楽しむ上でカギとなります。

切れ者で優秀な刑事であるナイーアですがシングルマザーであり、事件にのめり込むことで家庭と仕事の両立に苦悩し、IT部門への配置転換を願い出ております。
一方のヘスは、ユーロポールから「出向」して来た刑事で、何処か人を寄せ付けない気配をまとい、うつろな表情を抱えた人物。
当初はそんなヘスに不信感を募らせるナイーアでしたがヘスの一見起伏の乏しいその表情の下に垣間見える観察眼の確かさと事件解決への執念を知ることで次第に共同捜査のペースを築あげて行きます。

物語の主軸として犯人の動機、そして犯人が犯行現場に置く木の実の人形=チェスナット・マンになぜ行方不明となったクリスティンの指紋がついているのかという2点があるのだが、ラストまで観るとミステリーとしてきちんと着地させていて、その辺りはきっちりとした原作があるという事が功を奏しております。
事件の内容には猟奇性も伺えますが、その本質は気の滅入るようなもので日本だって他所事ではない今日的なテーマを含んでおります。

しかし同時に「サイコ・サスペンス」ドラマとして「よくある話」であるのも事実。
その上で本作が上出来なのは先述の通り、主人公たちのキャラクターがきっちりと描写出来ている点が大きいことと、もう一つは舞台となるデンマーク、コペンハーゲンの空気感。
季節的には秋ごろの様ですがそれでもどこか常に底冷えするような気配が漂うようで、骨身に応えます。
それとヨーロッパ、特に北欧産ということもあって国民性も関係するのか、基本的にとてもシリアスな雰囲気。
もちろん、描かれる事件の内容自体が深刻な物ですから当たり前と言えますが、もし本作がサイコ・ホラーのメッカ、アメリカ産ならば、恐らくスタイルが優先され、見栄えは良いもののどうしても「軽い」印象の作品になってしまったのではないかと感じました。
本作では犯行現場の描写はかなりリアルですが犯行シーンそのものは皆無に近く、かなり抑制が効いております。

チューリンは事件捜査にのめり込む自身の性癖と刑事という職業柄、時間の管理が難しく、母として幼い娘に寂しい思いをさせている事への罪悪感に苛まれています。
そんな彼女が凶悪な事件を前に「刑事」としての信念に突き動かされるようにクライマックスにかけて傷つきながら突進していく様が中々にカッコいい。
しかし本作で一番魅力的なのはやはりヘス刑事。
やせぎすの長身で感情の起伏に乏しいこの男性刑事の表情と言葉の合間から垣間見える刑事としての臭覚の確かさ、犯人への怒り。
ドラマ中盤で彼のうつろな表情の理由が明かされるとその言動から目が離せなくなります。
クライマックスにはアクション要素も盛り込まれてはおりますが、やはり基本的には演技とニュアンスで人となりを描き出している訳で虚ろな傷ついた魂を抱えたまま捜査に当たるその姿は実に「カッコいい」。

ラストに至る迄にチューリンとヘスの間に刑事としての共感が生まれる様がきちんと提示されておりますが「慣れあい」といった気配は無く、それがエンディングの後味に生かされております。
本作はサイコ・スリラージャンルのドラマではありますが、物語を進めるのは主演のDanica Curcic とMikkel Boe F?lsgaard氏のコンビネーションとそれぞれの演技でありその点にぶれはありません。
それが見ごたえを生む理由であり、素直に彼らの次なる共同行動を見たいという気持ちになりました。
できればSeason2があってほしいものです。
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