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窓際のスパイ シーズン1のEikeのレビュー・感想・評価

窓際のスパイ シーズン1(2022年製作のドラマ)
4.0
ゲイリー・オールドマン氏、1958年生まれで御年66歳。
1980年代から英国映画界で活躍され始めた訳ですから結構なキャリアを積まれて来たことになります。
若い頃にはカリスマ性とエキセントリックなタッチも出せる器用さから悪役や癖の強い役柄で重宝されていた印象がありますが近年はグッと渋み増して存在感が出て来た感があり、2018年にはDarkest Hourでアカデミー賞を獲られておられる訳で正に名実ともに名優の域にあると言えましょう。

しかし、である。
役者としてこのキャリアと実力があっても、この熟年世代の演技派が本領を発揮できる素材と巡り合うのは容易ではないのが現在のショービズ界なのだ。
スタジオは金を稼げるフランチャイズ作に資本を集中しておりますから、80年代の様に本格的だったり、野心的だったりするドラマはもう作るのも難しいのが本当の所だろう。
そのような場を求めて今やベテラン勢は大挙してスクリーンからストリーミングサービスに活躍の場を移しているのが現状なのだ。

本作はApple+のオリジナルシリーズですが英国産。
国家諜報機関MI-5でそれぞれの理由から「外様」扱いに落ちぶれた面々が集められた通称Slow Horsesがそのリーダー、ジャクソン・ラム(G・オールドマン)の下、シーズンごとに否応なく事件に巻き込まれて行く…。と言う内容。

負け犬の活躍するドラマは何時の時代も我々にアピールするものではあるが本作は英国産なのでちょっと印象が違う。
格下に甘んじている彼らの活躍によって留飲を下げると言うよりその結末はかなり地味でリアル。
そこから感じられるのは本作の主眼はあくまでキャラクターの描写にあるということ。
特にこの第一シーズンは事件の内容自体、国家規模の陰謀と言ったものでも無く、その分Slow Horsesの各メンバーの紹介、彼らの行動の動機に集中して描かれています。

ラム氏の過去は謎めいており、オールドマン氏の演技にはカリスマ性と吸引力があり、ちゃんと楽しめるシリーズになっております。
ヘビースモーカーでがさつ、下品で口の悪い中年太りのロートルスパイの悲哀が滲み出ておりますがその胡乱な目つきの裏にふと垣間見える冷戦時代の叩き上げ諜報員としての嗅覚の確かさと冷徹な判断力。
鉄のカーテンの崩壊によって世界勢力の図が書き換わったことで前線から「降りる」ことを選んだその意図などすべてを説明するのではなく、人物描写と他者との交流の中から浮かび上がらせるといったドラマ本来のあり方は今や逆に貴重にも思えてきます。

クリスティン・スコット・トーマス扮するMI-5のディレクターとの丁々発止の駆け引き、部下でおっとりとした見かけの下で実は鋭いスタンディッシュ女史との関係など人間関係についても英国らしい毒が散りばめられていてやはり見応えがあります。
こういう作品こそ「大人のための娯楽」でしょう。

オールドマン氏、キャリアを積み重ねて来て、ここにきて新たな「代表作」に巡り合えたといえると思います。そう考えると演技者としては間違いなく「勝者」なのですね。
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