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ハイジャックのEikeのレビュー・感想・評価

ハイジャック(2023年製作のドラマ)
3.3
空を飛ぶ密室とも呼ぶべき飛行機はサスペンス劇の舞台として正にうってつけ。
だからなのか毎年のように飛行機を舞台にした娯楽作は作られている気がする。
特に、現在ではデジタル映像の進展もあって派手なスペクタクルも容易に作り出せるようになっているお陰もあるでしょう。

本作はApple+オリジナル作ですが、大きな特徴は全7エピソードからなるシリーズドラマになっている事。
飛行機は永遠に飛び続ける訳には行かない以上、その機内を舞台にしたドラマもコンパクトにまとめるのが通常だと思う。
だから7話というのは少々長すぎるのではないかと危惧したのだが…。

そんな本作ですが、中々巧くまとめられていて娯楽作としては十分に及第点。
成功の要因は2つあって一つ目は本作がアメリカ産ではなく英国ドラマである点。
見映えは決して派手ではないがサスペンスにしても人物造形にしても基本的にはシリアスに徹している事。
米国産の様にスタイル偏重に流されず、ドラマ部分を疎かにしない態度がサスペンスドラマに相応しいものになっていると思う。

もう一つはもちろん主演のイドリス・エルバ氏である。
アフリカ系英国演技陣のトップランナーとも呼ぶべきエルバ氏であるが演技面はもちろんだがそのカリスマ的存在感こそ「スター」の証。
しかしアメリカのエンタメ界にあっても彼の魅力を引き出すに足る企画が中々に無いのは勿体無い訳で、そんな中で本作は上出来ではないでしょうか。

ドバイからロンドンに向けたフライトにたまたま乗り合わせた主人公サム・ネルソンがハイジャックに遭遇してその混乱の中でどう行動するのか…と言うシチュエーションはともすればダイ・ハードシリーズになりかねない処だがサムはジョン・マクレーンではない。
設定としてサムは凄腕の企業ネゴシエイターという事なのだが意外にもその背景はほぼ描かれていない。
彼の別居中の妻や息子との距離感の様なものはきっちりと描かれていて後半のサスペンスのネタになっているもののサム・ネルソンと言う人物の造形はほぼエルバ氏の演技に委ねられている。
そしてエルバ氏はサムを単純なヒーローにするのではなく、危機的局面にあって機転を最大限に利かせる人物として人間臭く演じている。
クライマックスではアクション要素も取り入れられてはいるが本作はスペクタクルドラマではなくサスペンス作である。

7話は冗長過ぎかねないところだが中盤以降、ハイジャックされた飛行機がロンドンに近づいて来ることを察知した英国政府(外務省・内務省)の葛藤もきっちりと描かれていて単調にならないよう配慮されている点は嬉しい。
その辺りの実直さはやはり「英国ドラマ」らしさがあって見応えを生んでいる気がする。
クライマックスの意外な展開もアイデアを盛り込む努力が伺えるだけでも評価したいところである。

ハイジャック犯と事の真相自体はちょっと説得力に欠ける気もするのだが目くじらを立てるのも野暮な気がします。そういうマイナス面に目を瞑る気持ちにさせる辺りが作品の勢いというか力なんだろうな。
夏の暑さをしのぐには悪くないシリーズでありました。

P.S.:本作の主人公、サム・ネルソンのキャラクターは語られていない点が多く、物足りなさもありますが、その点はApple+からアナウンスがあったSeason2で描かれる事になるのでしょうか。楽しみに待ちたい。
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