Eike

First Love 初恋のEikeのレビュー・感想・評価

First Love 初恋(2022年製作のドラマ)
4.1
Netflixジャパンのオリジナルシリーズ全9話。

これぞ日本のメロドラマと言った印象の作品である。そして作り手側がそれを隠そうとしていない点がユニークと言えるのかもしれない。
なんせタイトルからして「初恋」だもの。
ただ、メロドラマは既にそれこそ星の数ほどの作品が存在する訳で本作に何か「新しい」ものを期待するのは得策ではないだろう。

主役の男女(これも最近ではそうとも限らないが)のロマンスを描くこと。
その主人公たちの行く手には乗り越えるべき幾重もの試練が待ち構えている事。
メロドラマの基本要素は言ってしまえばこの2点である。
逆に言えばこの2点さえきちんと描くことが出来れば、後はどんな要素を取り交ぜようともドラマとしては成立するのだとも言えるだろう。
そのお手本とも言えるのが近年人気が高い、いわゆる「韓流ドラマ」なのだろう。
本作はそれに対する日本側からの返答のようなものと言えるのかもしれない。
そして本作に関しては一定の範囲で成功していると思う。

本作、フォーマットこそ連続ドラマであるが全編を見終えた印象はほぼ「映画」である。
地上波のドラマだと1時間番組であってもCMなども入る訳で、実質的には45分程度にしかならず、繊細な感情の綾を描いたり季節の変化を捉えた風景描写を用いて作品世界を構築する余裕など無いのが実情だろう。
本作はそうした細やかな描写も存分に盛り込まれていて急ぐことのないペース運びもあって逆に新鮮な印象でストリーミングという「メディア」の強味を見せられた気分である。
全9話と結構長丁場なのだが、ある男女の20数年を経て響き会う恋心の物語にどっぷりと浸ることが出来る。
これが中々に心地よい。

コロナ禍という前例のない状況に直面して製作には大きな苦労が伴ったらしいがその事実までも取り込んでいる点は感心した。
また、主人公たちを取り巻く環境にはその時代の移ろいの中で日本が直面してきた様々な事象が盛り込まれており(イラク戦争や東日本大震災など)作品の同時代性が高められていて物語がより身近にそして濃密に感じられるものとなっている。

もう一つ大きな点は本作の主な舞台が北海道である事だろう。やはりこれが東京だとどこか作り物めいた印象が強くなり過ぎたような気がする。
雪の降り積もる平原、凍てつく冬の海辺、ライラックの咲きほころぶ春の野原、熱を孕みながらもべたつかない空気感が心地よい夏。
時間をかけて撮りためられた映像は確実にその季節の空気感を捉えていてて薄っぺらさが無くて非常に贅沢に感じられた。
またそれら季節感を含めて「日本」のドラマだなぁという実感が生まれているのも興味深い。
その点に関しては世代的にやはり岩井俊二の「Love Letter」(1995)を想起せざるを得ないのだがむしろその正統な後継者とも見える本作が登場するまでに25年以上もかかった事が驚きである。
そして本作にインスパイアを受けた作品がいずれ登場するのではないかと言う気もする。

アダルトチームの満島ひかりと佐藤健、その若き日々を演じたヤングアダルトチームの八木莉可子と木戸大聖のそれぞれの時間軸を前・後半に切り分けるのではなく綿密に織り込んだ構成を貫いたことも長丁場でも新鮮さを保つ原動力になっていた気がいたします。
よく考えれば相当に都合のいい展開が満載(エンディングはほとんどおとぎ話だ)なのに気にならなくなるのはエンターティメントの力ですね。
日本的な感性をストレートに生かしたメロドラマがこの時代にもちゃんと楽しめるものになっている訳で変な言い方になるがちょっと安心しました。

それにしても劇場公開される実写の邦画に活気が感じられない状況にある事を考えると、やる気のあるクリエイターはますますストリーミングメディアを目指すことになるのではないでしょうか。
そして本作はその成功例として記憶されて行く事にある気がいたします。
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