Eike

THE LAST OF USのEikeのレビュー・感想・評価

THE LAST OF US(2023年製作のドラマ)
4.1
ゲーム版に対して知識を持たない視聴者としての感想。

HBO発の話題のドラマシリーズだが既に2ndシーズンへのGOサインが出ており、まだ時期は早いが本年度を代表するヒット作になると思われる。
映像化のネタとしては従来の小説から始まって現在ではアメコミが主流だが、そこにこれからはゲームも本格的に加わるんでしょうかね。

2003年、突如謎の真菌類による人類への寄生攻撃が発生。
その寄生菌に感染すると体を乗っ取られ生ける屍としてさらに感染を広めるべく他の人間を襲う事に。
人類はこの未曽有の危機に直面して文明は瞬く間に崩壊。
そして20余年が経過し、荒廃したアメリカ。
全米の各地に散らばった生存者たちは、変異した感染者(Clicker等と呼ばれる)の脅威に怯えつつ細々とコミュニティを形成。
しかし生産活動を含めて生活環境は劣悪でコミュニティ内部でも対立が容易に表面化する状況にあって混乱を極めている。
主人公のジョエルはパートナーであるテスと共にコミュニティの中で目ざとく生き抜いていたが消息が途絶えた弟を探すためにコミュニティの外へ出ることを計画しヤバい仕事に手を染めています。
そんなある日、行きがかり上、反抗組織Fireflyの幹部からある「荷物」の輸送を託されることに。
問題はその荷物が13歳の少女エリーであったこと。
生意気でしぶとさを感じさせるこの少女を引き連れてジョエルたちは危険に満ちたコミュニティの外に向かう事になるのだが…。

という基本的なプロットに何か目新しいものがある訳では無い。
大災厄以降の世界を描いた作品は今や小説、漫画、TVや映画に枚挙いとまがない訳で、今ではすっかり「おなじみ」のジャンルと言って差し支えない。その点は本作のもう一つの要素「生きる屍」の脅威についても同様である。
こちらも近年で言えばやはり「ウォーキングデッド」という大ヒット作もある訳で…。
言わば本作の設定自体は既に「ひな形」が出来上がっている雰囲気がどうしても強く、新鮮味が足りないと言えそう。

本作を取り仕切っているのは新進気鋭の脚本家であるCraig Mazin。
彼が一躍脚光を浴びたのが脚本・制作総指揮を担当した同じHBO発のシリーズドラマ“Chelnobyl”。
1986年に起きた人類史に残る悲劇をリアリズムを持って描いたドラマシリーズは文句なしのクオリティで高評価を獲得。
そんな人物がどのように「ホラーゲーム」の映像化のかじ取りを行うのか。
全9話観終わって、作品のクオリティは十分に高いと感じた。
恐らくゲーム版のファンなら余計に楽しめる点も多いのだろうがオリジナル版の知識が無い立場からしても十分に視聴に値する作品となっている。

特徴としては何と言ってもシリアス度が高い点。
ホラーゲームということで謎の真菌に感染した人間はいわば「キノコ人間」(マタンゴみたいだ)と化し健常者に襲い掛かる訳でその内容から「ゾンビジャンルの亜種」として扱われてもおかしくない。
それをドラマ化するとなるとある種の「色物」めいたジャンル系のドラマになる(「ウォーキングデッド」が典型だろう)のが当然なのだが本作のアプローチはかなり異なる。
クリーチャーが引き起こすホラーではなく災厄によって文明が失われた環境下で生き延びた人々の苦悩と行動を描くことに主眼が置かれている。
そのタッチが非常にシリアスなのだ。
各エピソードで多彩な登場人物が描かれてはいるが基本的にはエリーとジョエル、この二人の道行に集中した造りとなっている。
特にこのシーズンではジョエルの心情にスポットライトが当てられている。

本シリーズのテーマとトーンを決定づけたのはエピソード3 "Long Long Time"であろう。
このエピソードでは主役の二人ではなく、コミュニティから遠く離れた場所に一人で暮らすビルと言う中年男性の物語がつづられる。
文明が崩壊し明日何が起きるかも分からない状態に置かれ、生き抜くために自分以外のを全て切り離して生きているビルの元にある日フランクと言う男性が現れる。
戸惑いつつもフランクを受け入れたビル。
そして二人は互いを支え合いながら濃密な関係を築いていくのだが…。
ということで激しいアクションも感染者によるホラーともほぼ無縁のエピソードとなっている。
しかしこれが本シリーズの目指すところを示すある種のマニフェスト的な内容になっているのだ。

ビルとフランクはゲイのカップルとして描かれているのだが、この両者が中年の白人男性であることと、二人の関係を描くに当たってなまなましい描写も避けていない点もあって強く反発する人もいるようだ。
しかしその設定を踏まえた上で人が孤独に朽ち果てて行くことを当たり前に受け入れてしまう事こそが何よりもホラーなのではないかと言う点と逆説的に例えこの世の終わりに直面しようとも他者を愛することを恐れず、人と繋がることが出来るならそこには常に希望と救いがあるのだというメッセージはきちんと伝わるものになっているのだ。
このエピソードのエンディングを経てエリーとジョエルの間に単なる荷物とその運搬人以上の絆が生まれていく過程に段違いでリアリティが生まれているのだ。

ただ個人的に、後半のエリーの回想エピソードで彼女のかつてのルームメイト、ライリーへの思いが描かれるシークエンスはエリーの設定年齢が13才であることを考えるとそのセクシュアリティーをこの時点でことさら強調する必要があったかどうかは少し微妙に感じた。
またこのエピソードを含めて後半に向けて感染者の脅威を描く部分が極端にセーブされている点にはエンターティメントとして少々物足りなさも感じる。ゲーム版のファンの方はどう思われるのかな。

今シーズンの終わりはクリフハンガーとはなっていないがそれでも物語は決して完結した訳ではなく、エリーとジョエルの旅がどのように続いていくのかシーズン2を楽しみに待ちたい。撮影は早ければ今年の後半には開始される予定らしい。
主演のベラ・ラムジー嬢も難しい役どころであるが熱演である。
しかし今シーズンはやはりジョエル役のペドロ・パスカルの貢献が光る。
大災厄の最中に一人娘を守れなかった後悔を抱えた男性の虚無感と少しずつ「守るべき存在」を得て生きる目的を取り戻していく姿を巧みに演じていて、お見事だ。
Disney+での「マンダロリアン」と本作、同時に2本の大ヒット作の主演を務めているのはさぞや大変だろう。
燃え尽きないようにしていただきたい。
Eike

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