Eike

From(原題)のEikeのレビュー・感想・評価

From(原題)(2022年製作のドラマ)
3.9
米国ケーブルTV放送局epix制作による2022年度の新作シリーズドラマ。
第一、および第二シーズンは共に10話で放映済み。

フィクション創作の始まりは常に「もしも・・・だったら・・・」。
その時点ではどんな奇抜な/非現実的な設定も許されて然るべきでありましょう。
しかしそのアイデアをいざ形にするとなると途端に様々な問題が生じてきます。
本作は一話あたり45〜60分程度のドラマのフォーマットをとっておりますが、十分楽しむことが出来ました。

物語はキャンピングカーで旅する、ある家族が奇妙な現象に見舞われる事から本格的にスタート。
森の中の一本道が倒木によって行く手がふさがれ、引き返した彼らはやがて寂れた小さな集落に通りかかります。
そこで見かけた住人に道を尋ねたもののどうも要領を得ず、止む無くその一本道を進むと何度進んでも同じ集落に戻ってしまい、ループから抜け出ることが出来なくなってしまいます。
焦った彼らは突然前方から現れた乗用車と接触し横転事故を起こしてしまいます。
負傷した彼らを集落から駆け付けた住人達が救助するのですが日が傾き夜の闇が迫るにつれて村の住人たちの間で異様な緊張感が高まってきます。
やがて彼らはこの場所にひそむ恐るべき脅威を身をもって知ることになる…。

製作・脚本・演出陣にはAvengersの最終2部作のルッソ兄弟やヒットしたドラマLOSTのスタッフが関わっているということで中々に手練れており、完成度は高い。
登場人物たちがある種の閉鎖空間に閉じ込められてしまう点やそこに未知の脅威が潜んでいるといった設定はLOSTと似ております。
ではその「柳の下のドジョウ」を狙ったドラマであるのかと言えばそう単純ではありません。
確かに謎に満ちた閉鎖空間やそこに閉じ込められた人々のドラマと言う点では共通点も伺えますが意外と「二番煎じ」と言った雰囲気は強くありません。
それにはいくつか理由があるのですが一つにはLOSTがある「島」を舞台としていたのに対してこちらは小さな「集落」とスケールがかなり意図的に抑えられている点があります。
この「死んだ町」、妙に「リアル」感があるなぁと感じたのですが撮影はカナダのノバスコシア州の片田舎で実際に「廃村」となった場所で行われたそうで、リアルなのも当然ですね。
周囲を森に囲まれたその寂れた雰囲気が中々に良い。

そしてもう一つの要因は本作が完全に「ホラー」となっている点。
物語において未知の要素は常に「脅威」でありますが、本作において夜の訪れと共に住人達に迫る謎の存在は完全に「化け物」として描かれており、バイオレンスシーンそのものは直接描写されていないのですがその結果についてはえらく詳細に見せております。
このモンスターに関する描写部分は非常にS・キング的。
特に住人たちの肉親や知人の姿かたちをとってやって来るモンスターたちは住人自らが彼らを招き入れない限り家や部屋に入れないという設定はもちろん、ヴァンパイアジャンルの「お約束」であり、その描写はキングの初期の代表作の一本「呪われた町:Salems's Lot」に瓜二つ。
モンスターに襲われた被害者は正に血みどろの八つ裂き状態でとても正視できるものではないのですが詳細に見せており、地上波のドラマでは放映できないものになっています。
しかし本作はこのモンスターの脅威やミステリー部分の解明を中心に据えたドラマにはなっていない。そこが面白い所だと思いました。

とりあえず2シーズン見た時点で本作の設定はどう転んでも不条理なものではあるのですが、視聴者の関心を集めるのに十分な謎とショックシーンが含まれています。
しかし2時間の映画ならばその勢いだけで見せ切る事は出来ても10話で構成される連続ドラマとしてはそれは容易なことではありません。
本作の本領はこうした不条理な状況下における「人間ドラマ」の構築において発揮されています。
端的に言えば脚本の質の高さという事になるのでしょうが。

それぞれの理由があってこの場所に囚われた住人達の間のドラマ部分がしっかりとしているので中盤以降はモンスターの脅威は表面的には影をひそめるのですがそれでもちゃんと関心を失うことなく物語に没入できるのが嬉しい。
そのドラマの中心役を果たす町の保安官役ボイドを演じるハロルド・ペリノーはタフさと同時に不安と妻を守れなかった後悔の念に苛まれる姿を熱演していて、ある種ナンセンスな物語の中でリアルな葛藤を視聴者に伝える役割を果たしております。
常に脅威にさらされ緊張感と不安に苛まれる住民たちを取りまとめ、秩序を維持する重責を担う彼の視点とその苦悩がベースにあるお陰で単なるホラードラマではなく人間描写にも重点が置かれていることがちゃんと伝わってまいります。
この手の物語のパターンとして奇妙だったりエキセントリックな人物も多数登場してまいりますがとりあえず付き合うのが億劫になるほどわざとらしい人物造形はされておらず許容範囲かと。

ネタバレしようにも2シーズンでも謎は何一つ解明されておらず完全なクリフハンガーで状態。
本作の「謎」については現時点ではどう転んでも理詰めで説明がつくとは到底思えません。
しかしだからと言って「SF/ホラー」ジャンルとして開き直って「何でもあり」の作風にシフトされると「なーんだ、結局○○ネタかよ」と一気に醒めてしまう視聴者も出て来る訳で…難しいかじ取りになるでしょうが楽しみにしたいと思います。

それともう一つ感じたのは「多様性」。BLM運動以降、アメリカのTVや映画界は一気にマイノリティの扱いを見直した印象が強く、本作でも様々な人種/文化的背景の方々がフィーチャーされております。それはそれでヘタするとわざとらしさが生じたりするのでしょうが、本作のホラータッチの流れでは巧くブレンドされている雰囲気で好影響を与えている気がします。

追記1:
Season2鑑賞終了。
まず先に感想。
「面白い」。だけど決して「万人向け」ではない。
1stシーズンの感想でも述べたが本作は「ホラー」の側面が露骨で、その点からしても万人向けとは言えない内容である。
しかも謎がどんどん積み重なる内容でもあり、全10話付き合うのも面倒に感じる方もいるだろう。
しかしストリーミングメディアがこれほど普及してきた以上、この「分かる人にだけでも見てもらって特定の支持を得られる作品を提供する」というアプローチは間違いなく正しいと思うのだ。
そしてこの内容にきちんと費用を投じ、しっかりとした演技のできる人材を揃えるプロダクションが組めるというのはやはりアメリカのショービジネス界の底力を感じずにはいられない。

1stシーズンのラストでは何一つ謎が解き明かされなかった訳だが、この2ndシーズンでも急がず、じっくりとドラマを蓄積しながら徐々に謎の真相に近づく様が描かれて行きます。
正直じれったくもあるのだが、視聴する側もドラマの登場人物たちと同じ情報しか持ち合わせていない訳で、ペースにハマれば物語の展開が気にならずにはいられなくなるだろう。

とは言え、設定に妙味があっても演技者たちが中途半端に演じたのでは一気に見る側の関心も冷めてしまいかねない。前シーズンのラストで新たな登場人物たちも「到着」した訳だが今シーズンもまずは及第。
やはり主人公、ボイド役のハロルド・ペリノーは今シーズンも熱演。
住人達に最後の時が迫りつつある中で傷だらけになりながらも懸命に謎に立ち向かう様が頼もしい。こういう地に足の着いたキャラクターがセンターステージにいるだけでドラマとしての芯が通るのだから面白いものだ。
このトラップ状態の「村」を襲う怪異の正体、住人たちの運命と言った内容の謎の解明は今シーズンの結末においても解消からは程遠い。
しかし徐々に見えて来るものがあるのも事実で、あのネタなのかそれともあっち系なのかと思いめぐらす余裕を与えてくれるのは考えてみれば「贅沢」とも言えるだろう。
今シーズンを通した印象はホラーと言うよりは「ダークファンタジー」なのだがラストの超展開によって主人公の一人、タビサの身に起きたショッキングな事件により単純なファンタジーの境界線を切り崩して見せた訳で巧いエンディングでした。

追記2
本作、無事に第3シーズンへのGoサインが出ております。
ただ、脚本化・俳優組合のストの関係で制作時期はかなり遅れそう。
首を長くして待ちたい。
Eike

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