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刑事ジョン・ルーサー シーズン1のEikeのレビュー・感想・評価

4.1
BBC製作のポリス・ドラマシリーズの第一シーズン(2010年)

日本でも警察ドラマは常に人気がある訳ですが同じ刑事ドラマでもやはり英国産ということで一味違います。
とは言えこの手のジャンルのスタンダードとも言えるアメリカン・エンターティメントの影響を強く受けていることは明らかで、スピーディーな展開もあって娯楽度も高い作品と言えます。

その上で米国産TVドラマシリーズと何が違うのかと言えばやはり「ドラマ」としての骨格でしょうか。
本作で言えばあくまで主人公、ジョン・ルーサーと言う人物の心情を物語の中心に据え、怒りを胸に秘めつつ猟奇的な事件の真相に迫り、凶悪な犯罪者たちに戦いを挑むその姿には迫力があります。
それと一話辺りのランニングタイムが55分程度ある点も大きい。
というのもBBCは英国国営放送で通常のCMは入らない訳で、みっちりとこのボリュームをドラマ本編に費やすことが可能になっている訳です。
一方のアメリカの通常のネットワーク・ドラマの場合、一時間のプログラムでも5,6回はCMが入る訳で(これがまた長い)ドラマ本編は一話辺り実質45分にも満たないのが普通。
この差は細やかな情景・心理描写などに費やすことのできる時間に現れて来る訳で、結果として「本格ドラマ」として印象に違いが生まれている気がします。

感情のコントロールや私生活に問題を抱えた刑事という、ありがちと言えばありがちなキャラクターに命を吹き込む主演のエルバ氏の存在感は中々に頼もしい。
ですが猟奇性も伺わせる犯罪者たちとの駆け引きを繰り広げるルーサーの奮闘は意外にも殺伐とした描写も多く、「文化大国:英国」の先入観を裏切られる気がしないでもありません。
伝統が根ざす英国を舞台にしたミステリーと言うよりは現代的なサイコサスペンスとしての匂いが強く、これが「現代の英国」を活かした設定という事になるんでしょうか。

だとすればエルバ氏の出自にもその要素は十分に見て取れます。
シェラ・レオネ出身の父とガーナ出身の母を持つ移民世代として生まれた生粋のアフリカ系英国人。
同じく英国組のチュイテル・エジャフォー(こちらはナイジェリア系)と並ぶ新世代のアフリカ系英国演技陣のフロント・ランナーですね。

ドラマとしてのユニークさは主人公、ルーサーが凶悪なサイコパスを追い詰める王道の展開の中にルーサー自身が自分の中に潜む「不安定性」に不安と疑問を抱えていたりする面にあり。
そしてこの第一シーズンにおいてその点を際立たせるのが第一話で登場する最強の社会病質者アリス・モーガン(R・ウィルソン)との関係。
完全犯罪者である彼女が初めて手に入れた理解者=ルーサーへの執着を強めて行く下りはサイコサスペンスとしてはまぁありがちな展開であります。
しかしルーサー自身、誰とも分かち合うことのない複雑な自分の心情を見透かしてくるアリスに惹かれて行く姿が描かれていてちょっとアブナイ雰囲気を生み出しておりこれが中々に魅力的であります。

こうしたオイシイ要素を散りばめつつも脇を固める役者陣は英国らしく華には欠けますが手堅く、本格ドラマの体裁はちゃんと整えられております。
アメリカ流のエンタティメントの影響を強く反映しながらも本格ドラマとしての線は譲らない、結果として見応えのあるものになっている訳で、ある意味理想的な作風と言える気も致します。
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