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ブロードチャーチ ~殺意の町~ シーズン1のEikeのレビュー・感想・評価

4.0
米国発の映画界がシリーズ作やコミックヒーロー映画で埋め尽くされる現状にあって、「本格ドラマ」に関してはもはやTVが最後の砦といった感があります。

ただ喜ばしいのは80年代辺りから世界中を席巻してきた米製エンタティメントの影響を受けて育った各国のクリエイターたちの台頭によって米国以外からも次々とグローバル標準のエンタティメントドラマが登場するようになってきたこと。
その代表作はやはりBBCが送り出したSherlockだったりするのでしょうが、同じ英国産の本作、Broadchurchも大評判となりました。

そそり立つ岸壁と広大な砂浜が織りなす風光明媚なリゾートBroadchurchのビーチである朝、11歳の少年の遺体が発見されます。
それが岸壁からの転落事故を装った殺人事件であることが明らかとなり、小さなコミュニティは大きな試練に直面する...。
事件を追うのはこの小さな町の警察に着任して間もないアレック・ハーディ刑事部長(デヴィッド・テナント)。
そして彼に昇進の機会を奪われ、わだかまりを抱えた女性刑事エリー・ミラー(オリビア・コールマン)。
一見穏やかな町ですが捜査によってコミュニティのメンバーたちの隠された事実が次第に明らかになり、捜査が進むにつれて町を覆う影が濃くなってゆく...。

ミステリドラマとしての体裁もきっちりとしていて最終話まで誰が犯人か...まぁ分からない。
アメリカのシーズンドラマとは異なり、全8話で完結と間延びした感がないのも好印象。
ミステリとして緊張感が途切れないのは演技陣にも事件の真相は秘されていて、一人を除いて全員「もしかして自分が...」と思いながら役作り・演技をするスタイルをとっていたことも大きい気がします。

しかし本作の真骨頂は実はミステリ部分ではなく、次々と明らかになってゆく住人たちの素性や秘密が生み出す人間ドラマ部分にあり。
その本質はラストに凝縮されていてうならされました。
最終話、その冒頭で犯人が明らかとなり事件は解決を見るのですが、そこで物語が終わるわけでは無い。
犯人が捕らえられ、事の真相が明らかとなっても尚、拭いきれない葛藤や苦悩に人々が呑み込まれてゆく様が赤裸々に描かれていて胸に迫ります。
この堂々としたドラマ部分こそフィクションの醍醐味でありましょう。
いやはや、英国ドラマは大人だわー。

アンサンブルキャストが絶品。
決して場面やセリフの多くないキャラクタの面々も絶妙なスパイスとなっております。
それでも、やはり主演格の二人は別格。
テナント氏扮するハーディ刑事部長が文字通り命を削って事件解決に奔走する様は悲痛ですが、人間味とユーモアも垣間見せて強烈に「人間臭い」。
相棒となるミラー刑事は警察官であると同時に妻であり、母親であり自身もコミュニティのメンバー。
そのため捜査線上に浮かぶ容疑者たち(皆、顔なじみ)を当初は客観的に眺めることが出来ず苦悩することに。
そんな彼女がハーディと共に事件を追う内に次第に「刑事の顔」に変貌してゆく様が恐ろしく自然で説得力に満ちております。
ヒロインとして華に欠ける印象の演技派女優にこうした役を委ねる度量はさすがに英国ならではでしょう。それに見事に応えて見せた今やオスカー女優であるコールマン女史もあっぱれです。

狭いコミュニティの中で終始した物語ですがBroadchurchという港町の広大なビーチと断崖が織りなす景観美の効果もあって閉塞感はなく、ロケーションの魅力も大したものです。
殺人事件を扱ったドラマですが過剰にセンセーショナルなタッチで煽るのではなく、じっくりと人間関係を描く本格ミステリドラマになっており、その完成度は実に高い。
派手さはありませんが「ドラマ」の面白さを堪能したい方には自信をもってお勧めしたい。
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