Eike

真夜中のミサのEikeのネタバレレビュー・内容・結末

真夜中のミサ(2021年製作のドラマ)
4.5

このレビューはネタバレを含みます

マイク・フラナガン、待望の新作。
Netflixオリジナルシリーズとして全7エピソードで完結。

言ってしまえばフラナガン版Salem’s Lot:「呪われた町」なのだろう。それほどS・キングの影響を強く感じる内容になっております。
ただ、それが単なる模倣にとどまっていれば取り立てて記憶に残るような作品にはならないのだろうが、きちんとした主張や人物造形が盛り込まれているのでドラマとして見ごたえのあるものとなっている。
その上でホラーとしてのフレームを利用しながらも、きっちりと物語を打ち出す手腕は中々に頼もしい。

フラナガン監督自身が幼少期を海辺の街で過ごし、またカソリック教会でAltar Boyを勤めていたということでその経験を通じて培われた宗教、信仰への考察が物語に反映されているのは明らかです。
これまでも多くの欧米のホラー映画においては教会や信仰行為がある種のツールとして利用されてきた訳だが本作はかなりストレートに宗教テーマを掘り下げていて深みがある。
その反面、見方によればかなり「辛気臭い」と感じる人もいるでしょう。

本作で気に入ったのは閉じたコミュニティ内での物語に落とし込んでいる事とその舞台を人口僅かな島に設定したアイデア。
事実、全7話から成る物語自体は基本的にこの島内部で完結していて閉鎖的な物語であるとも言えます。
しかし最終的にはそのコミュニティの崩壊までの全容が根こそぎ描かれている訳で意外にもスケールは小さくなっておりません。
ただ、この最終的なカタストロフィについても過剰に煽り立てることは控えられている印象で、あくまでスペクタクルではなく物語中心の構成にぶれは生じておらず、それも本作の本格ドラマとしての印象に繋がっている。

ホラー作品として本作のユニークさは「悪意の不在」にあり。
恐怖を主題にした物語においては主人公に何らかの脅威が襲い掛かる状況が提示されるのが通常であり、その要素として:
1.主人公には特段の瑕疵がない事。
2.にもかかわらず何らかの悪意が第三者から主人公に向けられる。
という状況から緊迫感を創造するのがパターンである。
それが悪霊であれ、シリアルキラー、人食いサメ、はたまたゾンビであっても主人公は何らかの理由、状況から悪意(と見なせるもの)を向けられ危機的状況(命の危険など)に追いやられる…それがホラーを生み、観客のハートを鷲掴みにするのである。
しかし本作の場合、ほぼクライマックスに近づくまでこうした状況は提示されていない。
それどころか直接の脅威をもたらすのは謎めいた「エンジェル」のみと言って差し支えないのだ。

本作の中心人物であるポール神父は自らを救済した「天使」を利用してこのコミュニティに「福音」をもたらすことを決意しそれを実行する訳でそこに「悪意」は微塵も無い。
そして事実、彼の願い通りに島の住人たちは肉体的には大きな恩恵を受け、認知症の高齢者は若返り、脊椎損傷で車椅子の少女は再び歩き始める。
しかしポールの肉体に大きな異変が起き、時を同じくして消息不明となる島の住人が出始める。
一度は島を離れ、金融ブローカーとして羽振りの良い生活を送っていたライリーは飲酒運転で死亡事故を起こし服役。
出所後に島に戻って来るが犯した罪の重さに絡めとられて身動きもままならない状態。
かつての恋人で同じく島に戻ったエリンと再会を果たすもやはり心は晴れません。
彼がポール神父の「秘密」に接したことで初めて自らの進む道を選択する勇気を得てエリンに真実を告げた上で自らの罪を贖う事になりますがその選択はショッキングではありますが悪意によるものではないため、不思議な感触を残します。
結果的に最終話のラストまで観ると本作はホラーと言うよりはある種の「悲劇」としての印象が勝ります。
この辺りはフラナガン監督の前作「ヒルハウス」との共通点を感じました。
本作の主役は誰なのかを視聴者に委ねる辺りは現代らしいアプローチと言えよう。
Eike

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