WILDatHEART

勝手にしやがれ 4Kレストア版のWILDatHEARTのレビュー・感想・評価

4.0
『美しき虚無』


パトリシア(ジーン・セバーグ)は尋ねる。

「『野生の棕櫚(しゅろ)』(フォークナーの小説)読んだ?
 最後の文章が素敵なの
 ー 悲しみと虚無では悲しみを選ぶ ー
 どっちを選ぶ?」

ミシェル(ジャン=ポール・ベルモンド)は答える。

「俺は虚無を選ぶ
 悲しむのは妥協だ」


この映画はまさにそんな映画だ。
虚無を選ぶというジャン=ポール・ベルモンドの上記のアンサーには、この映画の持つ空気が象徴的に表現されている。

映画全編に心地良い虚無が流れているが、それは空っぽということではない。
どこまでも軽やかではあるけれど、それでも軽薄ではない。

中身が詰まった虚無を見せられた。
そして、魅せられてしまった。
それがこの映画を初めて観たときの印象であった。

でも、じゃあその詰まった中身とは何なのか?
さっぱり謎だったけどその答えを今回ようやく見つけることが出来た。


ここには映画を観ることの幸福が詰まっている。
そうとしか言いようが無い!

フォークナーみたいにわざわざ「悲しみ」を選んで賢ぶるなんてカッコ悪過ぎる!
そんなのは「妥協」に過ぎない。
何と言われようと、ここには美しい虚無がある。それは悲しみではなく幸福だ。

この映画を劇場のスクリーンで観て感激出来ないなんてそんな人生は詰まらなさ過ぎる。
レストアされた美麗な画面で観る一つ一つのシーンがキラキラと眩しくて、その体験は至高で至福のひと時だったから。


この映画には無邪気な悪意と知的な悪戯が満ち溢れている。
このような阿漕(あこぎ)で悪どい創意に満ちた映画が純度100%の娯楽たり得るただ一つの条件とは、世の中が平和であることに尽きよう。

同じ星でたった今戦火にのまれ命を落としてゆく人々が居ることを考えた時、この映画を劇場で前のめりに楽しむことの出来た幸福を染み染みと噛み締めながら雨上がりの夜の街を歩き家路に就いた。
平和を装った街にあったのは、ただの中身の無い退屈だった。


↓ジーン・セバーグが可愛い!サウンドトラックから「New York Herald Tribune」
https://youtu.be/sTTNsZB5FNs
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