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ミツバチのささやきのWILDatHEARTのレビュー・感想・評価

ミツバチのささやき(1973年製作の映画)
4.0
『捧げられた祈り』


語り尽くされたこの作品に、こんな風変わりな解釈を与えることは出来ないだろうか?

殺害現場となった廃屋を訪れたアナを発見した父親が、自分の目の前に居るアナを追い掛けなかったのは何故だったのか。
このシーン以降のプロットはアナが紡ぎ出した夢(幻想)だったと考えることは出来ないだろうか。
つまりイザベルがかつて語っていた、かの廃屋に宿る精霊とはアナ自身のことでもあった。
アナは精霊となって自らの殺害現場へと戻って来たのかも知れない。

アナが敗残兵の靴紐を結び終えてから兵士が銃殺されるまでの間に差し挟まれるべきだったシーンを、監督は映画「フランケンシュタイン」に予め暗示させていたのではないだろうか。
フランケンシュタインの怪物は遊びのつもりで少女を殺してしまう。まさしくアナが弄ばれて殺されるそのシーンを描くことなく、映画の導入部において自らの死を予感する形で、しかも誰もが知る古典恐怖映画のストーリーを用いて物語っていたのだとしたら…
この世のものではなくなってしまうアナの存在感を表現する配役は彼女しか考えられなかったかも知れない程に、少女の瞳は黄泉(よみ)の世界を見通すが如き透明感をたたえて居る。

死を理解していない少女が死後に存在する場所…それは生と死の重なり合う場所、精霊が集うあわいである。
ラストシーンでアナが語るモノローグは、今や精霊となったアナに象徴される内戦の犠牲となった子どもたちへと手向けられた哀悼の言葉の如く響く。


美しくも畏ろしい映画である。


無論僕が曲解した結果ではあるが、初体験となった「ミツバチのささやき」はもはやスペイン内戦を超えて、死を理解する前に死んでいった世界中の子どもたちの魂にしばし想いを馳せ、祈りを捧げることが出来た神聖なる至福の99分であった。


↓アランフェス協奏曲 / ハウザーとペトリット・チェク
https://youtu.be/Ilx_Fi5qD0k?si=nbzKPqBudmVFx8GM
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