WILDatHEART

ピクニックatハンギング・ロックのWILDatHEARTのレビュー・感想・評価

5.0
『夢見る映画』


"Everything begins and ends at exactly the right time and place."

ーJoan Lindsay


神隠しにあった犠牲者達は、原始世界の荒々しい土着の神が欲した生贄だったのだろうか。


温室植物園の世話係がジャニターの男に見せた、オジギソウと言う名の植物。
外形的には通常の草花と何ら差異は無いが、ひとたび人間の手に触れられるや次の瞬間不思議な動きを見せてまるで動物の如く艶めかしく蠢く。
まさしくあのオジギソウの様に、ハンギング・ロックと呼ばれるかの禍々しい岩山は生贄となるべき無垢な少女達の接触により目醒める時を、百万年もの間じっと待ち続けて居たのやも知れぬ。


百万年前に隆起したとされる峻険な岩山が天空へと屹立する様はさながら男性性の象徴である。
そそり立つ男性そのものの様な岩山を処女性の象徴の如き美しい少女達が昇り詰めてゆくその光景はエロティックで蠱惑的な空気をスクリーン一杯に満たしてゆく。

少女達は裸足になって岩山の尖端に立ち恍惚とした表情を浮かべて踊り、疲れて横たわり微睡(まどろ)む。
想起されるイメージは、原始世界の神々との神聖なるセックス。
ジョルジュ・ザンフィルのパンフルートの音色が神秘性を帯びて響く。
少女達は神々と一体となり神の世界へと誘(いざな)われる。
変性意識状態に入ることで異次元の世界と周波数が一致してしまう一種の共鳴により忽然とこの世界から消失するその現象を我々は神隠しと呼んできた。


セーラが自死の前に語った様に、ミランダはこの世から消えてしまう自身の運命を早くから悟っていたのかも知れない。
文頭の台詞はミランダ自身のものだ。
全ての物事に定められた時と場所があり始まりも終わりも最初から決定されているのだと...
生、死、転生、...


観終わった後には哀惜や寂寥にも似た、夢から覚めたかの如き余韻が残る。
でも、ちょっと待てよと思う。
忽然と消えてしまう運命を予感していた、ラストシーンで笑顔で手を振るミランダは人生そのものが一瞬の夢であることを伝えてくれていたんじゃないだろうか。
オープニングで彼女が読み上げる詩が語るように、この映画を通して恐らく我々も夢の中で夢を見ていたに過ぎないのだ。


人生という儚い夢は続く。


若い頃からもう何度観たか分からない程だが、夢の旅を続けるためにこれからも幾度となく観ることになるであろう極上の「夢を体験する映画」である。

To be continued...


↓印象的に使われていた、素晴らしく美しい ベートーベン ピアノ協奏曲第5番「皇帝」
https://youtu.be/sfQ_6f7S19Q
WILDatHEART

WILDatHEART