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シェイプ・オブ・ウォーターのWILDatHEARTのレビュー・感想・評価

3.5
『児戯の悦楽』


本作「シェイプ・オブ・ウォーター」の良さは、例えば10歳の頃にジュヴナイル小説を夢中になって読んでいる時に感じていた、あのこぢんまりとした箱庭的世界観にあると思うのだ。
一歩間違えれば幼稚とも取れそうな極端に単純化された勧善懲悪の世界観。
現れた瞬間にそのキャラクターが善人か悪人かが判別可能な、明と暗とに明確に色分けされた少年少女小説のノスタルジー世界。
このお伽話の世界には複雑な人間性は存在していない。
単純で分かり易いからこそ童心に還って愉しめる児戯の如き悦楽がある。

南米からの移民のメタファーと思しき半魚人を虐めまくる強圧的で男尊女卑の権化の如き軍職員ストリックランド。ドナルド・トランプの愛読書「The Power of Positive Thinking」を仕事の合間に読むこの強面(こわもて)男の比喩も分かり易い。

もちろん本作は明白な「反トランプ政権映画」であり、それこそがアカデミー作品賞受賞の最大の要因であろう。
(製作された当時米国はトランプ政権の時代。)
ギレルモ・デル・トロ監督はインタビューにおいて「マイノリティを差別する現政権に対する批判を現代の話として描くと上映出来なくなるので、時代を過去に設定してお伽話にすることで実現させた」と語っている。


この映画に込められた主張と同様に、トランプは差別主義者だと揶揄する人達も居る。
本当にそうだろうか。

互いにナショナリスト同士であるプーチンとリスペクトを共有出来るドナルド・トランプが現在の米大統領であったならそもそもウクライナ戦争は起こっていなかったとする有識者の声も聞かれるし、僕も全くその通りであると思う(トランプ政権の時代には新たな戦争は起こっていない)。
米民主党政権の中枢に存在するネオコン政治家たちのスラブ民族に対する侮蔑意識は絶対に看過出来ないし、実際にそれこそが今般の戦争の核心的な引き金であった。
ウクライナ戦争を何が何でも長引かせ泥沼化させることで11月の中間選挙を勝ち抜こうとするバイデン陣営の思惑もまた見逃すことは出来ない。

人々は戦争当事国にしか注意を向けないものだが、実際に戦争を引き起こしたり長引かせたりして莫大な富を貪っている軍産複合体がほくそ笑んでいる現実に殆どの大衆は気付かない。
彼らグローバリストは国という枠組みを軽々と飛び越えて暗躍し世界を牛耳ろうとしている。
これこそがグローバリズムの本質であろう。

反グローバリズム思想を掲げるトランプは本当に差別主義者であろうか?
国境を越えて世界のあらゆる国から富を簒奪可能にするシステムを目論み、世界中にテロや紛争地域を増やし続ける主に米民主党に巣食うネオコンやそのバックに居るグローバル資本家達こそが、世界の諸国民を見下す差別主義者ではないのか?


かくの如く、現実はギレルモおじさんの描く世界ほど単純ではない。
彼が創る怪奇映画よりも複雑で奇怪なのはむしろ現実の方である。
”The Shape of Water(水の形状)”の様に掴み難いのは我々の住む現実世界であり、現実は怪物ホラー映画よりも遥かに恐ろしい。

でも、そんな現実からの逃避を試みてたまにはギレルモおじさんのダークな遊園地の様なジュヴナイル的箱庭映画の中に身を投じ童心を甦らせて戯れるのもまた一興であろう。


↓You'll Never Know / Renee Fleming
https://youtu.be/AfuMFHB80HE
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