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マエストロ:その音楽と愛とのtsuraのネタバレレビュー・内容・結末

4.0

このレビューはネタバレを含みます

マエストロ:その音楽と愛と

レナードバーンスタインとフェリシア・モンテアレグレの生涯を通じての愛の変遷を描いたブラッドリー・クーパー入魂の一作

興味深い2人の関係。

前半部で、ニューヨーク・フィルでの異例の抜擢からレニーのキャリアの隆盛振りとフェリシアのとの出会い、甘い恋が目眩くスピードで展開。ミュージカルさながらの愉快な作りと音楽で見る者を魅了し、中盤で家族と2人の絆がよりフォーカスされる。

しかし一転、後半部のフェリシアの視点での描写からドラマとしては寧ろ成熟していく。

彼女の覚悟はレニーの躍進と放蕩振りに見事に揺らぐ。フェリシアは内助の功の様に振る舞い表舞台から遠のく一方でより一層人生を謳歌しているレニーに辟易。2人のバランスの崩れ、距離感が如実に、そして凄い緊張感で語らていく。


映画のハイライトは時間を経て2人の再会が描かれる文字通り愛の"復活"を描くイーリー大聖堂での「マーラー:交響曲第2番」は圧巻。

そして闘病生活。

更に晩年の描写も忘れず、音楽とひたすらに向き合いながらも相変わらず我が道を往くバーンスタインを描きつつ、フェリシアへの愛を訥々と語る。

でもこの映画、不思議なくらい"音楽"の映画なのに、音楽の事は後回しにしてるからレニーの功績やクラシックが疎くても見れてしまうけど、矢張り彼の音楽を知っていると、この選曲や偉大さを噛み締めながら2人の夫婦漫才振りを楽しめる。
そうしてあらためて彼の作品や指揮した曲を振り返ると偉大さに平伏すばかりである。
そう言った点で捉えると伝記映画なのかもしれないけど。

でもその割には夫々のエピソードが密接でも無く時間だけを追いかけてる感じが途中まで抜け出せずそれこそミルフィーユ的にエピソードを積み上げてるのに物語の醸成はイマイチ感が拭えない。いっそ、それならばもう少し長い尺で2人を追って愛の表裏を物語る様なエピソードを語っても良かったかなという所を感じるという点では、消化不良の様な感覚は否めなかったのもまた事実あった。

ちなみに前半部の怒涛の展開は画面の作りが非常に面白い。
フェリシア初登場のシーンは往年の名作を彷彿とさせるし、2人の愛が沸点に達するシーンはこれまた往年の名作ミュージカルへのオマージュだ。

私はこの作品を時間の流れを上手く再現したカズ・ヒロの丁寧なメイク術、そしてレニーとフェリシアを演じたブラッドリー・クーパー、そして何よりもキャリー・マリガンの圧巻の演技に拍手を送りたい。彼等は賞賛に値するし、演者のこの2人を見る為だけでもこの作品は鑑賞の価値があると思うので、是非ネトフリユーザーはゆっくりと時間を取ってこの作品を見るべきだと思う。

こうやってクラシック音楽を取り扱う作品が「TÁR」を含め製作された事はクラシック音楽ファンとしては嬉しい。

久々にまたマーラーも聴きたくなった。
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