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シチリア・サマーのtsuraのレビュー・感想・評価

シチリア・サマー(2022年製作の映画)
3.7
シチリアを舞台に若きニーノとジャンニのひとときの逢瀬。

夜を彩る筈の花火が、この映画の中では何処までも物悲しく切ない。
あまりに生きづらく本当の自分を隠さないと生きていけない私達のこの辛さ。
色モノとして捉えず、多くの人に触れて欲しい一作

映画は本当にあった2人の同性愛者が殺害(自殺?)事件を基に舞台設定を82年のワールドカップに熱狂するイタリアに移し、カトリックの色濃い国の中でピュアな感情が、同性愛というだけで何処まで狂気と隣り合わせに立たされるのかを上手く描出している。

淡々とそしてシチリアの暑い土地の日常を切り取りながら2人の恋愛が美しく語られていた。

丁寧に描きたい雰囲気には好感を持てたが、周囲を囲む人の描き込みは淡白、と言うより少し滑稽にすら映った節がある。

それは懸命に踠く2人とのコントラストなのか、それが陽気さを表現しているのか、はたまた現地人の無理解を引き出すためなのかは不明だが(当時イタリアでは同性愛は病であり、無いものと見做されていた)

主人公を演じた2人は溜息を付いてしまう程の美青年。
そして2人それぞれが相手に向ける視線は、「それそれ!」と納得してしまうリアル感。
画面は何処を切り取っても一瞬を切り取った写真の様に研ぎ澄まされているし眼福なのは間違いなかった。

センチメンタルな感情を大いに焚き付け、叙情的でアンビエントな質感を伴う作品が昨今多くなったが、この作品もその類。
しかし間違いなくこの作品の源流には「君の名前で僕を呼んで」が見え隠れしてしまうし、比較してしまう。

何処かで嫌気を差しつつ、だけどこの手のラブストーリーを見るたびに思うのは成就しなかった自分の片想いが、それこそ花火みたいに光っては散る様に心をよぎるから痛い。辛い。
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