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戦場の小さな天使たちのWILDatHEARTのレビュー・感想・評価

戦場の小さな天使たち(1987年製作の映画)
4.7
『大英帝国の矜持』


戦時下の市井の人々の人生を描いた映画で、かつてこれほどまでに明るく胸のすくような、前向きなエネルギーに満ちた作品があっただろうか。
主人公の少年ビリーの父親は出征し、ドイツ軍の爆撃とその後の火事により家族は家を失うが、そうした数々の苦難に見舞われるも物語から湿っぽさは微塵も感じられない。

それは、戦勝国が持つ単なる結果論的な優越意識では勿論ない。
「Hope and Glory」というこの映画のタイトルが示す通り、根底にあるのは如何なる時も誇りと希望を失うことなく気丈に生きる強靭なアングロ・サクソン(英国の白人)の魂であろう。


そして驚くべきは、戦時下とは思えないほど皆が心から人生と音楽を楽しんでおり尚且つ人々のファッションが素晴らしく素敵なことである。


↓以下、ネタバレなので読まないでね!


爆撃を受けて廃墟と化した家屋に侵入してギャングごっこに興じる子供達は、子供しか登場しないマフィア映画の傑作「ダウンタウン物語」(1976, 監督アラン・パーカー)を彷彿とさせる程にカッコ良くてお洒落で無敵過ぎて、ワクワクさせられる。

疎開先の母親の実家では、家の中でもお祖父ちゃんが3ピースの真っ白のストライプスーツを着こなし、常に口汚く悪態をついている。
四人娘が全員実家に戻って来ると苦々しい表情で娘たちを見やり、孫のビリーにありがたい訓戒を垂れるお祖父ちゃん。

"Don't try to understand them.
That road leads to ruin."
「(女を)間違っても理解しようなんて思うなよ。
 破滅するだけだからな」

師匠!なんでもっと早く教えてくれなかったんすか!!


疎開中の川辺での何とも優雅な生活に終止符を打ち再び学校生活に戻るその日落胆の色を隠せなかったビリーだったが、校門を入って見ると何と学校がドイツ軍に爆撃されていて廃校に!

"Thank you, Adolf!"
「ありがとうアドルフ(ヒトラー)!」

またもや疎開先のお祖父ちゃんの家へと舞い戻る車中でガハハ!と豪快に笑うお祖父ちゃんに釣られてこっちも大笑い。


エンディングで第二のイギリス国歌と呼ばれるエルガーの「Land of Hope and Glory(威風堂々)」(勿論この映画のタイトルのルーツであろう)をBGMに映し出される、たゆたう河の流れに象徴される英国人のタフネスと優雅さに、観るたび羨望の念を禁じ得ないのだ。
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