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スウィング・キッズのWILDatHEARTのレビュー・感想・評価

スウィング・キッズ(1993年製作の映画)
4.4
『スウィングしなけりゃ意味が無い』


(☆この映画はDisneyプラスで観れるよ!)
痛みに満ちた青春映画といえば近年では「セッション」があるが、本作「スウィング・キッズ」もまた奇しくもスウィングジャズに取り憑かれた男達の人間模様を描いた、これまた凄まじい痛みに溢れた傑作青春讃歌である。

♪It don't mean a thing
 If it ain't got that swing
 Doo wah, doo wah, doo wah,...♪
 (♪スウィングしなけりゃ意味が無いのさ♪)

「セッション」のラストでプレイされる「Caravan」を作曲したデューク・エリントンとその作詞を手掛けたアーヴィン・ミルズのコンビによって書かれ、ビリー・バンクスが歌う「It Don't Mean a Thing」が、この物語においてはナチスによる独裁とマイノリティへの迫害に対する反逆の意を込めて幾度となくシンボリックに歌われる。

1930年代後半のドイツではナチス・ドイツが台頭し、米国土着の文化である所謂スウィングジャズは敵性音楽として公然と禁じられていた。
それ故、禁断の音楽たるスウィングを嗜好することはナチスによるファシズムへの反逆の表明でもあった。


↓以下、ネタバレなので読まないでね!


男として飽くまで強さ(権力)を追い求めるのか、それとも己の信念を貫くのか。
運命を占う選択を強いられ、ついには袂を分かつことになるかつては無二の親友だった二人の若者。

二人の間で最後に繰り広げられる殴り合いは、お互いの存在を賭けた文字通りの血みどろの死闘となる。
それは、ピーター(ロバート・ショーン・レナード)にとっては、ユダヤ人に対し擁護的な姿勢を貫いたことでナチスに捕らえられ死んだ父親や、ナチスによる迫害の対象として象徴的な存在であるジプシー出身の天才ギタリスト、ジャンゴ・ラインハルトになぞらえられたキャラクターであり、障害を抱えるギタリストの親友・アーヴィッドがナチスの弾圧に屈して自死を選んだことから、父とアーヴィッドの弔い合戦の意味をも含んでいた。(ジャンゴ・ラインハルトもまた左手指に障害を持ったアーティストであった。)

一方、純粋に権力に対する憧れを抱き、体制側につくことでユダヤ人やジプシーを見下すようになるトーマス(クリスチャン・ベイル)。
自分の父親でさえもゲシュタポ(秘密警察)に密告して逮捕させる程にナチスの強硬な体制に心酔し心を尖鋭化させてゆくトーマスであったが、ピーターに対しとどめを刺す寸前ではっと思い留まる。

ゲシュタポによって連行されるピーターに向かって最後にトーマスがナチス式の敬礼のポーズを取って叫ぶ言葉は「ハイル・ヒトラー!」ではなく、
「スウィング・ハイル!(スウィング万歳!)」
であった。
そこには友情、感謝そして永劫の別れを予感させる弔意までもが込められていたであろう。
もしかしたら、愛憎入り交じる関係だった宿命のライバルがついに世界から消えることへの安堵も有ったのかも知れない。


弾圧がどれほど苛烈極まるものであったとしても、人間の精神から自由を、そして音楽を奪うことなど出来ない。

映画「ショーシャンクの空に」において、懲罰房から解放されたアンディ(ティム・ロビンス)が諭す様に囚人仲間達に訴え掛ける言葉が思い起こされる。
「音楽はここ(心の中)にある。音楽を人間から奪い取ることは出来ないんだ。」



多くのスウィング・キッズ達がその後送り込まれたゲットー(収容所)に閉じ込められたまま、胸の中で鳴り響くスウィングと共に短い生涯を終え、天国へと旅立った。
逮捕された時ゲシュタポに向かって歌ってみせたあの歌が、ゲットーに居たピーターの心の中で延々とプレイされていたことだろう。

♪It don't mean a thing
 If it ain't got that swing...
(スウィングしなけりゃ意味が無い)

Rest in peace.
スウィング万歳!


↓「ウエスト・サイド・ストーリー」に匹敵する程のこの映画のダンスバトル・シーン。
Sing, Sing, Sing (With a Swing) / Louis Prima
https://youtu.be/TOPSETBUgvQ
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