WILDatHEART

セッションのWILDatHEARTのレビュー・感想・評価

セッション(2014年製作の映画)
4.2
『鞭打ち(Whiplash)の如きイニシエーション』


この映画における音楽の描写については賛否が分かれるところかも知れない。

しかし、物語を理解する上で添えるべき重要な補助線として、この作品は音楽映画というよりも「音楽道」の映画という認識が必要であろう。
柔道・剣道を始めとする武道の如く過酷で凄絶な身体の鍛錬を通して己自身を作品化し芸術の領域にまで高めるという、所謂「道(どう)」を極めようとする野心溢れる若者とその道(みち)の圧政的な鬼師範との熾烈な衝突と研鑽の軌跡を描いた、「根性音楽道青春残酷物語」とでも呼ぶべき稀有なジャンルの類稀なる傑作と言って間違いないであろう。

スネアを血だらけの拳で突き破る主人公に刮目(かつもく)せよ。
まさしく空手道の「突き」からインスパイアされた凄まじき肉弾奏法である(嘘だけど笑)。


↓以下、ネタバレなので読まないでね!


この映画は、父親を乗り越えて自立する男のイニシエーション(通過儀礼)の物語でもある。
映画館の座席に座っている時、背後を歩く他の客からポップコーンのボックスを頭にぶつけられて何も言えずに首をすくめる、社会的成功からは程遠いポジションに居る父親。
そんな父親は、主人公アンドリューが思い描く理想の父親像からも程遠い人物であろう。

アンドリューが、厳格で強圧的な音楽の師範であるフレッチャー教諭を憎悪しながらも、崇拝すべき父性を象徴する心理上の父親として偶像化していたとしても不思議ではあるまい。


最後のチャンスとなったJVCフェスにおいてフレッチャーの仕掛けた罠に見事に嵌められ、恥をかかされた上に音楽のキャリアを潰されたアンドリューを、父親は慰める様に抱き寄せ優しく頬にキスをする。

この直後アンドリューは冷ややかな目で父親を上から見下ろし、一方父親は怪訝(けげん)な表情で伺うように息子を見上げる。
この上下の位置関係が、そのまま冷厳にもアンドリューと父親の間に横たわっていたリアルな隔たりをついに露わにしてしまう。

この時まさにアンドリューが、共に映画を観る様なまるで友達の如き実の父親との訣別を心に誓い、自分の中の父親的偶像であったフレッチャーの幻影を討伐(とうばつ)するべく決戦のステージへと上がる覚悟を決める瞬間を我々は目撃するのである。


大人の男性になるためにどうしても乗り越えなければならなかった宿命上の父親とのステージ(リング)上での格闘と、その後に訪れる二人の極めて音楽的な調和。


アンドリューは、結局成功にまで辿り着けなかったのかも知れない。
しかし、そんなことは最早どうでもいい。

人生に一度でも、これほどまでに魂を燃やし尽くす至福の瞬間があったなら。


↓来日公演でも凄く楽しかった、ブライアン・セッツァー・オーケストラの「Caravan」
https://youtu.be/h-HbftxBVuc
WILDatHEART

WILDatHEART