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ラ・ラ・ランドのkahikoのレビュー・感想・評価

ラ・ラ・ランド(2016年製作の映画)
4.5
音楽が一発で記憶に残る映画でした。

強い勧めで見に行ったものの、開始直前まで「絶対つまんないよコレもう帰ろうかな…」って思ってました(^^;
元々私はミュージカル映画は好きな方ですが、進んで観に行く方ではありません。如何せん「何かが爆発しない映画はほぼ見ない」生粋の「雑なアメリカ映画」大好き人間なので、ヒューマンドラマだの、恋愛ドラマだの、そんなものとはまったく無縁だったのです。(最近漸くヨーロッパ系の映画も見るようになりました…)
だから、人の評価で「凄く良かった!」と言われても、のんびり静かに進んでいくような映画は本当に、心の底から合わないなと思っていたわけで…ラ・ラ・ランドも、あらすじを読んだ感じ絶対そんな感じだ!!と思っていたのです。

さて、結論から申しますと、私の人生で初めて「何も爆発しないのに、文句なく素晴らしいと思えた映画」でした。
あの有名なテーマソングを、まだ主人公たちすら出てこない最初に持ってくることで、観客の心を掴んだのではとも思います。最初、静か~に始まったら、私は多分寝ちゃってました…
というか、ミュージカル映画?かな、これ?触れ込みではミュージカル映画と言われていた気がしますが、確かに歌ってはいるけどカテゴライズに悩みます。
この監督の映画は、音楽がかなり貢献していると思います。近所のTSUTAYAでよく新作DVDの宣伝を流しているのですが、あの印象的なピアノ曲"Mia & Sebastian's Theme"が流れるたびハッとしていました。まだ映画を見る前ですよ。
鑑賞後、3年経った今でもふと思い出し、聴きたくなります。ここまで記憶に残る旋律があるか?と不思議にも思いますが、今後も「この曲、聴いたことあるけど何の曲だっけ?」とはならないと思います。

さて、そんな音楽に重きを置いた作品ですが、完全なミュージカル映画かと言われればそうではなく、恋愛映画かと言われるとそれも微妙。本筋としては、若者の人生を追っていくシンプルな話。
恋をし、じわじわと近づき、喧嘩し、くっつき…それぞれが夢を追い、夢破れて自暴自棄になったり、ストレス発散してまた1からやり直したり…私が一番嫌いな傾向の映画だったのに、そのひとつひとつを凄く繊細に表現している。ただ恋をしている気持ちを、「愛している」の一言やキスシーンで終わらせない。ひとつひとつのシーンを、気持ちを、芸術的に表現し、見ている側はそこから「言葉で言い表せない感情」を知るのだと思います。
ロマンチックな言葉は数あれど、「言葉を使わずに」その気持ちを表現しろと言われたら?「今の気持ちを、言葉を用いずいかに表現するか」を徹底的に追求した映画といえます。
テーマを極限までシンプルにする代わりに、極限まで芸術的に表したら人生とはこういうものだと視覚的に、また感覚的にわからせてくれる作品です。

そういうわけで、格好付けたような、斜に構えた見方が好きな人には向いていないといえます。論理的で筋の通った話や合理的な生き方しか気に入らない人も、見ていてモヤモヤするでしょう。この映画に出てくる人たちは、ヒーロー気取りで格好良く生きようとか、安全第一で敷かれたレールの通りに生きるとか、そういうキャラクターではないからです。

ハッピーエンドではないですが、バッドエンドが嫌いな人でも大丈夫だと思います(私もバッドエンド大嫌いですが大丈夫でした)。むしろこのストーリーでハッピーエンドだったら、一気に安っぽくなってしまうのかも?
美しく終わらせる方法もあったのかもしれませんが…より現実的に、より美しく終わるならば、やはりこの終わり方が良かったのだろうと思います。
最後の「この人と人生を歩んでいたら…」の想像の部分。そして、セブがミアに頷いてみせるシーン。これが本当に素晴らしかった。
このシーンがあったからこそ、ハッピーエンド好きの私でも、むしろ深みを帯びた作品と感じられたのではと思います。
大号泣というわけではないけれど、静かに泣いて、エンドロールまで余韻を感じてからそっと席を立つような、そんな映画でした。
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