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メッセージのWILDatHEARTのレビュー・感想・評価

メッセージ(2016年製作の映画)
4.4
『∞ HANNAH ∞』


記憶とは不思議なものだ。
我々は時系列の掟を逃れて物事を体験することは出来ないが、思い出は時の縛りを軽々と飛び越えまるでランダムに我々の脳裏に甦って来る。
特に子供との思い出について言えば、彼らが生まれてからしばらくの間無限にも思える生命力を放って光り輝く時間を、それが過ぎ去った後も親は永遠に慈しむことが出来る。


↓以下、ネタバレなので読まないでね!


この物語の随所に差し込まれるルイーズ(エイミー・アダムス)の娘ハンナの映像を、通常の映画の文法に則って我々はフラッシュバックとして捉える。
しかし、後に気付くことになるのだ。
全てはフラッシュフォワードであったと。


例えば将来において、現在の体験を思い出すことで娘に「ノン・ゼロサム・ゲーム」という言葉を教えることになるという場面を、先取りしてルイーズは今見ることが出来る。

エイリアンが使う言語を習得することで彼女は時系列の縛りから解放され、未来の記憶をたぐり寄せることにより今を生きるための決断力を獲得することになる。


ノン・ゼロサム・ゲーム。


この物語の冒頭でルイーズが生後間もない我が子の手を握りその顔を愛おしむように覗き込む時、彼女は赤子がやがて成長し不治の病に冒されて死んでしまうことを既に知っている。
つまり、この時もう一度抱き寄せるために手を差し伸べ赤子に対して発せられる
"Come back to me."
(戻って来て)
は、我が子に向けて神に願う「この世に戻って来て」という祈りでもあった。


美しく儚く、悲しい物語。
しかしながら、全てはノン・ゼロサム・ゲームなのである。
運命と魂の駆け引きの結果は差し引きゼロではないのだ。

たとえ最後に喪失という最大の犠牲と悲しみが待ち受けていることが分かっていたとしても、我々は愛すべき存在をこの世へと迎え入れ、共に思い出を育むことで生きる糧を胸に抱き(喪失の後も)勇気を持って再び歩み出すのだろう。


HANNAHという前後のどちらの方向からも同じ綴りが延々と繰り返されるルイーズとイアンの娘の名前には、永遠に続く「いま」が刻み込まれている。

子供が幼かったあの時間の記憶。
親にとってそれは、永遠に続く「いま」なのだ。
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