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マックイーン:モードの反逆児のWILDatHEARTのレビュー・感想・評価

3.9
『ファッションと暴力と死』


アレキサンダー・マックイーンのデザインは、我々の内に潜む暴力性に火を点けてくれる。
小綺麗なだけで当たり障りの無いデザインばかりの昨今のファッションブランドとはかけ離れたアクの強いショーの圧倒的世界観に唯々瞠目する。

マックイーンのショーは暴力と死のイメージに満ち溢れている。
特に本作でも取り上げられている精神科病棟のようなセットの中央にジョエル=ピーター・ウィトキンの写真のイメージを再現した、インキュバス(淫魔)を想起させる肥満しまくった本物の女の裸体を平臥させたインスタレーションにはドキッとさせられるほどの狂気的な魔力があった。

マックイーンは暴力や死といった人間の暗黒面をも肯定的に捉えていた。
ダークサイドもまた美しいのだと。
しかし、次第に彼の暴力性は自身に向けられるようになり歯止めが効かなくなった究極の暴力により結局は自らの命をも奪い取ってしまったのである。


よく「自ら死を選んではいけない」等という綺麗事を言う人が居るけれども、一体世の中の誰が畏れ多くもそんなルールを他者に強いる資格を持って居ると言うのだろう?
自死は確かに悲しく残念なことではあるが、僕は故人が死を選択した決断を批判する気分というものが全く理解出来ないのだ。
目の前に居る誰かが死のうとしているなら無論それを何としてでも止めるが起こってしまった結果としての死は粛々と受け止めるしかない。

この世界には生きる価値が有るし我々は皆生きる為に生まれてきたことは間違いがない。
しかし、それを他人に分からせてやる等ということは不可能だしその考えを他者に強いることは傲慢であろう。
自らあちら側の世界へと旅立った人にはその決意に敬意を払うしかないし、唯哀悼の意を表するのみである。

そして、暴力や死をアートの領域と結びつけて圧倒的なデザインを産み出したアレキサンダー・マックイーンという今は亡き異能の天才に改めて惜しみない賞賛を贈りたい。


↓Feeling Good / George Michael
https://youtu.be/9JOXbSZcgkk?si=F59I143UxQdoYIFY
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