しばいぬたろう

死刑台のエレベーターのしばいぬたろうのネタバレレビュー・内容・結末

死刑台のエレベーター(1958年製作の映画)
2.0

このレビューはネタバレを含みます

『死刑台のエレベーター』('57)
Ascenseur pour L'echafaud / フランス / フランス語

ネタバレ禁止のどんでん返し系の映画かと思って鑑賞したが、大層なラストの展開はなかった。
その点がフランス映画らしい展開で、ヒッチコック的ノリを期待して鑑賞しない方が楽しめたかもしれない。
それでも、物語はスピーディに展開し、目が離せない点は良かった。
物語が女性のアップで唐突に「愛してる」から始まるのも、なかなか見かけない展開で好印象。


人妻のフロランス・カララと、彼女の夫の元で働くサラリーマンのジュリアン・タベルニエは不倫関係であり、心の底から愛し合っていた。
フロランスの我慢も限界に達し、二人はホロランスの夫であるカララ商事の社長を殺すことに決める。
それは完全犯罪なるはずであり、実行犯はジュリアンだった。

問題なく事を終えたジュリアンだったが、現場に証拠を残してしまったことに気が付く。
慌てて職場に戻ってエレベーターに乗ったところ、管理人がエレベーターの電源を落としてしまった。

一方で、ジュリアンに憧れる若い花屋の店員ベロニクの彼氏であるルイが、ジュリアンの車に勝手に乗り込む。
ベロニクはルイを諫めながらも、二人は立派な車でのドライブを楽しむ。
 
待ち合わせ場所で待つフロランスの元に、一行に現れないジュリアン。
その時、ジュリアンの車に乗った花屋のベロニクを見て勘違いしたフロランスは、夜の街を彷徨い歩く。
 
ベロニクとルイはドイツ人観光客夫婦と知り合い、一緒にお酒を飲んで、ディナーを楽しむ。
しかし、ルイはその夫婦の車に目を付け、朝方に盗み出そうとし、現場を見つけた夫婦を射殺する。
刑務所に入ることに絶望したベロニクとルイは、自殺することを決意し、ベロニクの住むアパートで薬を服用する。

ドイツ人観光客夫婦の殺人事件の犯人は、警察の調べによってジュリアンが第一容疑者となってしまった。
そしてジュリアンはその間もエレベーターに閉じ込められていた。


1958年ということで、時代の古さを堪能することもできる。
例えば、オフィスでは電話やエレベーターを、町では車やファッションを。
本作のオフィス電話は交換台のようになっており、今どきの子が見たら全くシステムが理解できないだろう。
(自分も今どきの子だが…)
また、エレベーターも別電源にはなっておらず、ブレーカーを落とすと止まってしまう。
そういった小道具が時代を感じさせるものだったので、なかなか新鮮な気分で鑑賞することができた。
 
キャスティングも素晴らしく、主演のフロランスを演じた女優はとても良かった。
あまりフランス映画を鑑賞しないため知らないのだが、フランスの大女優らしい。
常に無表情にも関わらず、彼女の心境を読み取ることができるのだ。
そのため、心の声は余計な演出で、正直いらなかったと思う。
 
ベロニクも良かった。
とても子供っぽく、くるくる変わる表情に魅了された。

本作では何より、音楽が素晴らしい。
特に夜の街をフロランスがブラブラするシーンでは、ジャズソングが合うのだ。
 
しかし、とにかくルイとベロニクの思考回路が意味不明過ぎる。
どうしてあっさり「偽名を使えばいいのよ!」や「殺しちゃったけど仕方ないわ!」になるのだろうか。
物語の主軸が、「完全犯罪をおじゃんにされた愛し合う不倫カップル」ではなく、「犯罪常習犯の若いカップルによる犠牲者パレード」の物語だ。
「主人公のエレベーター脱出譚」と「フロランス放浪記」と「若いカップルの犯罪録」の移り変わりが異質すぎて、別映画のした方が面白かったようにも思う。

有名な作品であるし、音楽は良かったので、観て損はないと思います。
また、愛を語り合うフランス映画だが、大人向けの描写も特にないので、親と鑑賞して気まずくなることもない。
しばいぬたろう

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