『Both Sides Now』
そよ風のようなエミリア・ジョーンズの歌声と同様に爽やかに過ぎてパンチの無い映画。
それでも、勿論十分に楽しめた。
バークリー音大の入学オーディションで歌われるジョニ・ミッチェルの「Both Sides Now」に主人公ルビーの想いの全てが詰まっている。
"I really don't know life(love) at all."
自分を頼りにしている家族と一緒に暮らすことの出来ない「人生」も、そして「愛」さえも全く想像が出来ない、と歌うルビー。
でも、それは幻影(思い込み)だったとも。
本当は自分自身の力で目の前に拓かれてゆく未来が彼女にはあったのだ。
若者の特権である、不可知な未来に対する不安と希望がないまぜになった胸が騒ぐようなあのときめきとワクワク感。
この航海の先には一体何が待ち受けているのだろう?
今、彼女は人生の大海原に向かって初めてたった一人で船を出す。
そんな彼女は、上述の歌詞にあるように未だ人生や愛について無知なままだ。
それでも、聾唖者と健聴者の両側(both sides)から人生を見つめてきたルビーだからこそ解っていることもあった。
「歌う」とは、彼女が人生を通じて愛する者たちに対してそうしてきたように、自らの体を使って懸命に思いを伝え、届けること。
「Both Sides Now」にはその名の通りルビーの今までとこれからの両方が詰まっていた。
↓個人的にベストバージョンの「Both Sides Now」
/カサンドラ・ウィルソンとパット・マルティーノ
https://youtu.be/xgV92EKFgMk