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ベルファストのWILDatHEARTのレビュー・感想・評価

ベルファスト(2021年製作の映画)
3.1
『未来へと続くY字路』


算数のテストでの解答の記入法について、主人公バディのお祖父ちゃん(キアラン・ハインズ)は意味深長なアドバイスを孫に授ける。

「答えを書く時にはな、7と1をどちらにも読めるように書いておくんだ。そうすれば相手が良き解釈をしてくれて、結果が良くなる確率はうんと高くなるから。」


カトリックか、プロテスタントか。
敵なのか、味方なのか。
白黒をはっきりさせようとする時、そこに抜き差しならぬ争いの種が生まれてしまうことになるのが人間の世の常であろう。
紋切り型の結論を回避して、敢えて答えを曖昧なままに留めておくことは良き計らいを導くための賢明な戦術である。

時の経過と共に薄れゆく記憶の様にピントの甘い、何だか微妙にぼやっとしたこの映画のモノクローム画面には、お祖父ちゃんがバディに教授するこの「曖昧さ」の意味合いが視覚的に暗示されているように感じられる。


お祖父ちゃんは神の言葉を知っていた。


いつの間にか「良き解釈」を忘れ、信仰におけるたったひとつだけの偏狭な解釈と共に敵や味方という決して越えることの出来ない壁をも作り出してしまった人間たちの諍(いさか)いを憂えながら、お祖父ちゃんは神の元へと旅立った。

結局バディたち家族は愛すべき故郷ベルファストを後にすることになったが、バディはお祖父ちゃんが授けてくれた神の知恵を北アイルランド紛争とは直接関係の無い遠い世界に住む我々にまで遍く伝える使命を帯びていたようだ。
そうして産み出されたのがこの郷土愛に満ち溢れた可愛らしい一編の映画である。


血塗られた歴史をかいくぐって一つの家族の中で継承されるに至ったこの崇高な知恵を活かすのか、それとも滅するのか。

いみじくもバディが牧師の説話の記憶を頼りに何とか懸命に描こうとしたY字路の分岐点に立たされるが如く、その選択は未来を紡いでゆく我々の手中に託されている。

「振り返らずに進みなさい」
独りベルファストに留まったラストシーンでのお祖母ちゃん(ジュディ・デンチ)の温かくも峻厳な眼差しは、分岐点に立つ我々の行く末をじっと見据えている。


追記
この映画を完全にこき下ろす為のレビューやコメントが散見されるけれども、正当な批判ならともかくいちいち腐すことに躍起になるのは如何なものか。
確かに重厚な語り口を備えた立派な映画ではないが、良いところを拾ってあげる視点も必要だし、この映画に限ったことではないが批判を超えてわざわざ監督の資質を罵る様な、一刀両断してやろうという気分を満載してネガティブな論評をする位なら敢えて書くことを控える方が賢明なのではないだろうか。


↓Everlasting Love / Love Affair
https://youtu.be/JaYTNsS_m2w
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