NaokiAburatani

オッペンハイマーのNaokiAburataniのレビュー・感想・評価

オッペンハイマー(2023年製作の映画)
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時系列と!
登場人物が!!
分かりづらい!!!
と、いう点を除けば、映画としては非常に心にくる作品。
時系列はギリギリ分かるんだけど、登場人物に関しては予習と復習が必須レベル。
ただ、史実を調べれば調べるほどオッペンハイマーの功績や様々な登場人物たちの事実関係が訳分からなくなってしまう罠‥
巷でよく言われてるフォン・ノイマンどこ行った?問題等。

今作は原爆の父と呼ばれたJロバートオッペンハイマーの生涯を題材にした作品ということと、ネットミームを巡ってのあれやこれやのせいで日本公開自体が危ぶまれていたが無事公開されたことに安堵した。
映画だから観る観ないは勿論自由なんだが、作品を観ないで的外れな批判したり、観た上でよく分からんネットミーム作られたりされることにモヤモヤしてしまう。また、今年のアカデミー賞でのロバートダウニーjrの壇上での振る舞いなんかも頭をチラついて、ノイズになってしまったのが非常に残念。

オッペンハイマーが不幸だったのは、作中でも言及されていた通り「慧眼だが盲目」であったことに尽きると思う。人の心には共感出来ないのに生命に対する倫理観は持ち合わせていたことがそれを加速させている。こんな不安定な人物が原子爆弾の開発に携わっていたことが恐ろしすぎる。また、量子力学というものを調べれば調べるほど、いかにこの世界の物理が奇跡的な確率で、かつ不安定なものかが分かってくるような気がするのだが、物理理論の天才の目にはこの世界がどのように写っていたのだろうか‥

この作品では、原爆投下を止められた可能性があったにも関わらず、知的好奇心と軍には勝てず、その結果全てを破滅させてもお釣りが来るような世界に変えてしまった悔恨の物語であり、決して戦争の結果を肯定したり、オッペンハイマーを英雄ではなく咎人として糾弾していたように思う。更に言うなら実験が下手くそ、不器用で女癖が悪く、完璧とは程遠い、人間としてちょっとどうかと思う男として描かれていた。
そんなメンタルが決して強くない人間を筆頭にして、ニア0の確率で連鎖爆発で世界をふっ飛ばしかねない実験されてたかと思うと気分が悪くなった。

「被害者視点がない」という指摘もあるようだが、ほぼオッペンハイマーの視点で進行する物語のためやむを得ないように思える。ただ、実際原爆に対する被害は直接見せることこそしないものの、オッペンハイマーの想像や広島の被害写真から目を背けてしまったこと、数字や言及でその凄惨さは十分表現されていたように思う。

結局、科学は開発自体よりも政治的な利用によって悪魔的側面を持ってしまうものなのだなぁ。ラストのオッペンハイマーの水面の幻視が現実のものにならないことをとにかく祈るしかない。
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