野武士

電波女と青春男の野武士のレビュー・感想・評価

電波女と青春男(2011年製作のアニメ)
-
 一見すると青春ポイントに精を出す男子校生と美少女たちのラブコメだが、記憶喪失から妄想症になってしまった少女を取り巻く暗い作品である。

 人間離れした容姿のエリオちゃんはある日突然いなくなり、記憶も何もかも無くした状態で帰ってくるわけだが、自分に何が起こったのかわからない恐怖から宇宙と交信する電波女になってしまう。人が生きていくためには夢や創作物といったフィクションが必要で、それはトラウマを隠すために防衛本能的に電波を発するエリオも同じく、その姿が非常に痛々しい。
かなりマイルドにオブラートに包まれた本作だが、原作者の他作品を見ればエリオの失踪が美少女アニメに似つかわしくない犯罪を想定していたことがわかる。フィクションの様な少女が文字通り現実に蹂躙されてしまった事実を受け入れ乗り越えようとする先に訪れる宇宙との交信は、三島由紀夫の「美しい星」で家族たちに訪れる最後の奇跡を想起させ、不思議と静かな感動がある。

 続編を予定していなかったためか、ETばりの自転車ダイブをピークに単純なラブコメへとシフトしていく本作だが、なによりも秀逸なのは神聖かまってちゃんによるOPの「Os-宇宙人」だろう。「Os」がいったい何を示しているのかを考えれば、エリオとの子のトラウマが奇しくも交信してしまったのも不思議ではない。
野武士

野武士