Nao

プラネテスのNaoのレビュー・感想・評価

プラネテス(2003年製作のアニメ)
4.8
2075年、化石燃料を使い果たした人類は新たなエネルギー資源を求めて宇宙へ飛び出した。
月や火星で日雇い労働者が働き、宇宙飛行士がサラリーマンとなった時代。
宇宙開発の過程で軌道に残された大量の宇宙ゴミ、スペースデブリは秒速8kmで宇宙を漂い、安全を脅かす深刻な社会問題となっていた。

意気揚々と宇宙に乗り込んだ新入社員の田辺 愛が配属されたのは、人類の未来を担う木星系資源開発計画を主導する国際的大企業テクノーラ社、のお荷物部署デブリ課(通称半課)だった。

愛があれば世界は変わる、夢見がちな田辺は、個性豊かな同僚と宇宙でのゴミ拾いに従事する過程で宇宙開発に隠れた不条理な現実を目撃していく。

宇宙開発により先に進んだ先進国クラブがさらに幅をきかせる一方で、貧困と紛争に苦しむ元産油国。
機会の均等をうたいながら競争のスタートラインにさえ立たせてもらえない途上国。
他者を切り捨て、宇宙の限界を目指す自身の欲望にわがままなエンジニア。
違和感を感じながらも家族のため、生活のために働く会社人。
宇宙開発に反発するテロリスト。
そんな宇宙で傷つき、傷つけられ、前を向き、たくましく生きる人たち。
眼前に美しく輝く地球に国境線は見えない、しかしそこには確かな格差が存在していた。

苦い現実に困惑し、愛をとなえ純粋に子供っぽく反発する田辺。
そんな田辺を横目にもう1人の主人公、残酷で美しい宇宙に魅せられた星野は一切の迷いを切り捨て、孤独に全力で自身の夢を追いかけることを決意する。

ロケット工学の父、ツィオルコフスキー言った。
“地球は人類にとってのゆりかごだ。だがゆりかごで一生を過ごすものはいない。”
ゆりかごを飛び出した先でたどり着くのは開発か共生か。愛か孤独か。
様々な感情が渦巻く中、”人類の”木星開発計画は着々と進んでいく。

“暖かいところに引きこもっていても、何の解決にもなりゃしないんだ”
交差する濃厚なストーリーと個性豊かなキャラクター、圧倒的な映像美で描き出される宇宙で生きる人々と愛の物語。宇宙工学のリアルな描写と宇宙ならではの病気や休日の過ごし方などの表現が深みを出している。
ラストの結末は何度見返しても色褪せない。
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