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もののがたりのslowのレビュー・感想・評価

もののがたり(2023年製作のアニメ)
3.1
原作のよさを半分(ラブコメ)しか再現できてない残念な低予算アニメ。

◆あらすじ◆
付喪神《つくもがみ》に家族を殺された青年・兵馬《ひょうま》は付喪神に対する憎悪を拭い去る事ができずにいた。
それを見かねた祖父・造兵《ぞうへい》は付喪神と暮らす女子大生・長月《ながつき》ぼたんのもとで一年間居候する試練を課す。
人と付喪神。二人の縁《えにし》を紡《つむ》ぐ共同生活がいまここに幕を開けた。

……簡単に言うと「ボーイミーツガールのラブコメ要素と和風バトルが楽しめる──ザ・王道の少年漫画」ですが、キャラ萌え要素が非常に強いのでどちらかというと「女子向け」寄りの作品です。

本作は尻上がりに面白くなっていくタイプで、普通なら物語の序盤は下地作りをしっかりと練ったうえで、徐々にスケールを広げていくのが少年漫画の基本スタイルですが、この作品の場合、その下地の段階が結構長めになっています。

ラブコメとバトルは最初調和しておらず、片方が展開されるともう片方の要素が足りなくなり、武器は地味だし、技はあっさりめ。「片方の要素が不足する物足りなさ」と「インパクトのなさ」が人気に繋がらない理由なんじゃないかなと。

そして、アニメを担当した制作会社の作画に難があり、ショボい演出がバトルパートをかなりつまらなくしています。

話が王道である『鬼滅の刃』が人気になったのはドラマの魅力や配信サービスの露出も勿論ありますが、アニメーションに力が入っていた点も少なくないでしょう。

ですが、『もののがたり』はバトルモノとして一番頑張らなくちゃいけないアニメーションが作画スタッフの力量不足で死んでしまっているので、アニメ版は原作の魅力を半分しか引き出せていません。

個性豊かなキャラクター達のラブコメパートに心惹かれた数少ないアニメ視聴者が毎週追ってくれている、そんな印象です。

原作のほうは王道でありながらも連載当初そこそこ人気だったのは、作者・オニグンソウ先生の画力の高さ。

きわめて戦闘シーンの迫力は凄まじく、キレッキレの爽快感があったのですが、アニメ版は「なんでこうなったのか」と肩を落とすほど覇気も味気も無いチープな戦闘シーンに仕上がっています。

原作を読み進めていくと、キャラや派閥が増えるにつれ、この作品どんどん面白味が増していきます。

「役者が揃った」という言葉がある通り、この作品はキャラと派閥が出揃って、ようやく読み応えのある物語が繰り広げられます。
具体的に言うと、原作の折り返し地点、雅楽寮《ががくりょう》編の後半から熱を帯びていきます。

そこからは意外な衝撃的展開、能力を応用した婚礼調度たちの本気の連携技、宿敵・唐傘一派との壮絶バトル、敵味方ともに繰り出される技の多さ、重厚で熱い人間ドラマなどがとめどなく展開され、読み終える頃には濃度が高すぎて、ドッと疲れます。

物語のエンジンがかかるまでが非常に緩やかなので、過小評価されがちな作品ですが、八衢《やちまた》家が出てきてからとんでもなく面白くなります。
一巻からしばらくの間は強敵が存在しないので、バトルがいまいち盛り上がりませんが、八衢編から難敵のオンパレード!

日本版『アベンジャーズ』と呼んでも過言ではないほど天井知らずで面白さが倍増していきます。
ですので、アニメ版を知っただけで、この作品の底を知ったと思うのはまだ気が早い。

なぜなら・・・「役者はまだ揃っていない」から──。
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