ベルベー

機動戦士ガンダム 水星の魔女のベルベーのネタバレレビュー・内容・結末

機動戦士ガンダム 水星の魔女(2022年製作のアニメ)
4.4

このレビューはネタバレを含みます

スーパー温故知新ロボットアニメ。「機動戦士ガンダム」のフォーマットを大きく崩したと思いきや、最終的には否応なく「ガンダム」の世界観に落とし込まれていく悲劇を、戦争というテーマとも呼応させて見せていく手腕。序盤の「ガンダム」ぽくないところが面白いことが前提になるので、言うは易し、行うは…である。

序盤の学園ものパートにせよ、終盤の戦争パートにせよ、無数の過去アニメからエッセンスを抽出している。「ガンダム」だけではなく、大河内一楼自身がシリーズ構成を手掛けた「プラネテス」「コードギアス」、はてまた幾原邦彦の「少女革命ウテナ」(大河内氏がノベライズ手掛けてるんだって!知らなかった)。或いは「進撃の巨人」。平成以降の「ガンダム」は全部そうだと思うけど、「ガンダム」に影響を受けた「エヴァンゲリオン」の逆輸入的要素も。

凄いなと思うのは、世間的には失敗作の「革命機ヴァルヴレイヴ」を正統進化させた側面もあることだろう。光るポイントが幾つかある一方で、トータルでは残念ながら…が否めない作品。10年前の覇権アニメを標榜しながら上手くいかず、そのクール話題を掻っ攫ったのは「進撃の巨人」だった。そのどちらも吸収する、反省を活かす姿勢はクリエイターとして素晴らしいと思う。三谷幸喜にも通じる。

三谷幸喜に通じるといえばキャラメイク。「感情移入させて好きにさせた上で落とす」という、一番視聴者の心を抉ることをする笑。「好きにさせる」が、媚びではなく現代の価値観に沿った思想、言動に依ることも注目すべきだろう。安易な身体的エロティシズムは不要、そんなものなくても人はキャラを推すのが現代だ。私はそんな作家が好き。古沢良太も同じ系統かも。「俺の白兎ィ…」とかね。あ、三谷氏渾身の平六に関しては身体的エロティシズム込みだけどあれをエロで楽しんでる人いねえからな…。何言ってんだろ。

スレッタとミオリネの関係はまさに現代的と思いきやその背景には「ウテナ」があるように、時代に合わせたものをピックアップするのが抜群に上手いのだ。「グエキャン」なんか凄い天然の産物ぽいけど絶対計算してるから。でも天然に見えるのが素晴らしい。

温故知新の話しだしたら、それこそシェイクスピア「テンペスト」がまんまモチーフになってたりするわけで、プロの知識量とアレンジ能力には頭が下がります。スレッタ、ミオリネ、グエル三者三様の親子関係(ここにエランの虚しすぎる疑似親子関係を入れて四者四葉でもいいけど)は実に「ガンダム」ぽいけど、それ以前にシェイクスピアぽいわけだし。特にプロスペラには参った。能登麻美子のキャリア全部活かして怪物を造ってしまった。

毎週トレンド入りさせるクリフハンガーも巧妙で、インパクト抜群の台詞群もさることながら、ここは小林監督の演出手腕も大きい。特に最終話のアレは周到に計算されたグロテスク。それまでのクリフハンガーはグロに頼らなかった(なんならコミカルな方面が多かった)からこその衝撃。いやはや。

ここまで褒めちぎっといてなんですが、2クール目には正直不安も残るところで…拘りまくった結果放送延期もあったし。それでも残る作画崩れもあったし。何より「コードギアスR2」が…最終回がアニメ史に残る素晴らしさなのは間違いないですが、一期のクリフハンガー連打に引きずられた中盤のグダリはテレビアニメとしては致命的欠陥だと思うので…そこも克服したスーパー大河内一楼に期待します!
ベルベー

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