ゆきひと

PLUTOのゆきひとのレビュー・感想・評価

PLUTO(2023年製作のアニメ)
4.3
偏った感情、憎しみは世界を滅ぼしうる、だけど、それを克服しようと踠く姿勢こそが人間またはロボットを「人」たらしめる。

作中のテーマと今の時代が抱える問題が至極マッチしているように思い、アニメ化の意義を大いに感じた。

人工知能を持つロボットの人権が認められ、自らの意思で子供を持つこと、家庭を作ること、職を得ることが認められている世界。

その状態に理解を示さない人も多く、作中、人間がロボットを蔑視する言動が意図的に多く描かれている。対して、ロボットが家族を愛し、失うことで酷く悲しむなど、高度な感情を持つ描写が多くなされる。そうなったとき、もはやロボットは奴隷としての機械ではなく、ひとつの生命体なのではないだろうか。

戦争を終戦に導いたロボット、戦争の要因となった調査団員の不審な死。ユーロポールのロボット刑事、ゲジヒトの捜査で「プルートゥ」の影が浮かび上がっていく…

アトムや天馬博士の考え方が印象的だった。人間の真似をしてみる。アイスクリームを美味しそうに食べたり、最愛の人の死に涙を流したり。「最初はマネごとでもいい。マネでも、そのうち本物になる。」そう言った天馬博士は、普段の機械的な振る舞いとは裏腹に、アトムの死に何粒も何粒も涙を流していた。

個人的には、アトムにはゲジヒトの妻、ヘレナに、失った記憶の真相を伝えて欲しいと思った。きっと彼女も、悲しみと憎悪を克服できる。

現実世界にアトムが誕生したとき、私たちはそれを受け入れるのだろうか。それとも、作中のように恐れ、恨み、蔑み、破壊に走るのだろうか。

同じ人間同士で差別の撤廃、偏見の解消、持つことができる権利について議論している現代。これからも長い時間をかけて議論し、折り合いをつけていくのだろう。しかし、「気味が悪いから」「今までそうでは無かったから」を理由に人を蔑むような考えは持ちたくないと考える。今揉めているのは、ロボットですらなく、人間同士の問題なのだから。

浦沢先生の絵柄が凄く好みだったので漫画の方も読み進めていこうと思う。そして全ての原作、鉄腕アトムも近いうちに拝見したい。
ゆきひと

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