
「春を咲かせよう。すべての人に春を」 "四季の代行者"とは—— 四季の神々から与えられた特別な力で各地に季節を巡らせる現人神。 人々が当たり前に感じている四季の巡りは、彼らの不断の努力によって保たれている。 しかし春の代行者・花葉雛菊がテロ組織に誘拐され行方不明となってから、大和国の季節は春だけが消え去ったままだった。 「雛菊様、独りにしないで。お願い帰ってきて」 自らの生活を全てなげうって主を探し続けた春の護衛官・姫鷹さくら。 大切な友人を守れなかった冬の代行者・寒椿狼星と冬の護衛官・寒月凍蝶。 十年の時を経て雛菊が突然の帰還を果たしたことで、止まっていた彼らの物語が動き出す。 様々な想いを抱えながら、雛菊とさくらは春を届ける旅を始める。 「二人で、生きる、の」 二度と手放さないと誓った少女とともに生きるために。 「あの二人は小さな恋をしていたんだ」 引き離された初恋の人に再び会うために。 「私達を傷つける、すべての者達に告ぐ」 誘拐され不条理に奪われた日常を取り戻すために。 雛菊とさくらは歩み続ける。 春を必要とする人のために。 悲しみの淵にいる人に寄り添うために。 何度傷ついても生きようと願う人に、希望を届けるために。 「私は貴方を守る。貴方も私には春をくれる。だから大丈夫、共に参りましょう」
——少女の姿をした春の神様が、窓の外を眺めている。 海底に佇んでいるように波打つ豪奢な琥珀の髪に、和洋折衷の美しい着物をまとった可憐な娘、春の代行者・花葉雛菊は大和国最南端の島である竜宮にいた。 彼女に付き添うのは、凛とした美しさを持つ春の代行者護衛官・姫鷹さくら。 本来、南国として名高いはずの島はいま、雪に彩られている。 互いに身を寄せ合うようにして列車に乗る彼女たちは、この島で失われた春を呼び戻す儀式を行おうとしていた。 「雪かきにいくの」 そんな中、儀式の場所へ向かう道中で二人は薺と名乗る幼い少女と出会う。 「あの、ね、雛菊は、春、を呼ぶ、ん、だよ」 「ハルって、なに?」 十年ものあいだ春を失った地で育った彼女は、春という季節を知らなかった。 「子ども、は、ね……守って、あげ、たいの」 薺の抱える想いを知った雛菊とさくらは、彼女のためにこの地に春を呼び寄せる決意をする。 季節の巡り替わりを四人の現人神が担うこの国において、 古くから伝わる代行者の歴史はこのように綴られることで始まる。 ——はじめに、冬があった、と。
Ⓒ暁佳奈・スオウ/ストレートエッジ・KADOKAWA/春夏秋冬代行社