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スモール・アックスのmikanmcsのレビュー・感想・評価

スモール・アックス(2020年製作のドラマ)
4.0
ピーター・バラカンさんのPodCastでBBC制作のTVシリーズ「スモール・アックス」のことを知りました。

私、昔からレゲエが大好物でして、「スモール・アックス」と聞いただけで" If you are the big big tree, we are the small axe."と歌が出てきます。「お前たちが大きい樹なら、俺たちは小さい斧だ(いつか切り倒してやる)」というレベル・ミュージックの名曲です。英国におけるブラック・カルチャーや差別との戦いを描くこのシリーズにぴったりのタイトルですね。Amazon Primeで#1のみ無料視聴になっていたので、喜んで鑑賞しました。

本エピソードの舞台は1968年のロンドン ノッティング・ヒル。映画「ノッティング・ヒルの恋人」で想起されるように、おしゃれなマーケットや高級住宅地のイメージでしたが、60年代はカリブ系移民のブラック・コミュニティがあったのですね。ノッティング・ヒルで「マングローブ」というレストランを開いた主人公が執拗な警察からの差別・嫌がらせにブチ切れ、抗議デモを行ったことが体制より「暴動の扇動」とされ、9人の仲間とともに裁判にかけられます。本作はその裁判の顛末を描くもので、「シカゴ7」ならぬ「マングローブ9」のお話です。

未見の方のために細かい筋は書きませんが、映画の前半はレストランがコミュニティ・センターになっていく様子が楽しく、抗議デモを挟んで後半の裁判劇はハラハラ、という構成はテンポがよいですし、登場人物のキャラが多彩なのでドラマチックに盛り上がります。脚本が上手いのだと思いますね。私的には消化不良だった「シカゴ7裁判」の何倍も面白かったです。

またこの映画、カルチャー面も私には興味深く「ど真ん中」でした。ファッションがいかにも当時の感じ(スペシャルズとかはこの辺を真似てたのかな)ですし、60年代のスカやロックステディがガンガン流れサイコーです。映画の導入部で主人公が街を歩く中、政治的な詩がナレーションされ、「おおリントン、店の前でたむろすんじゃねえ」と言うのは有名なUKのダブ・ポエット リントン・クエシ・ジョンソンへのオマージュでしょうかね。登場人物たちの話す「パトワ」英語も、LKJのアルバムで聞き覚えのあるものでしたので、「おお、本当にこうやって話してたんか!」と妙に感動。あと当時イギリスにも「ブラックパンサー」の組織があったのは、知りませんでした。

黒人差別を描く映画の舞台は殆どがアメリカ南部ですが、監督 スティーブ・マックイーンはイギリス出身なので、本作ではご自身のルーツを投影したのでしょう。1968年頃のロンドンといったら、ビートルズやツイッギー、モッズなど「時代の最先端」「スウィンギン・ロンドン」であり、それらを描く映画はたくさんありましたが、当時のブラック・コミュニティを描くものって、殆ど心当たりがありません。そういう意味でも貴重な映画だと思います。


#2は「ラヴァーズ・ロック」とのことで、またまたど真ん中のタイトル。見たいなあ。スターチャンネルEX入るか、マジで悩みます。。。それくらい、良かった。

まだFilmarks !では見た方が少ないですが、お勧めします。
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