鑑賞者

シー・ハルク:ザ・アトーニーの鑑賞者のレビュー・感想・評価

3.8
おもしれぇ……。五億年ぶりにおもしれぇや……。

・個人的に今作のユーモアはかなり刺さりました。“演技”自体がすごくおもしろい。(タハニ!久しぶり!!!) MVPは、ジンジャー・ゴンザーガ。まじツボ。

・デアデビルの回収の仕方は秀逸やね。リーガルという共通性と、IDの開示という対照性と。

・ちゃんとミソジニー論に則ってるところが高評価。最近、ミソジニーを分析する本を読んでるんですけど、そこに書かれてることがまんま描かれてました。おかげで、今作の解像度が爆上がりです。『面白いほど分かるシー・ハルク』でしたわ。一度ミソジニー論を勉強したら、この作品の見方が変わると思います。

・このミソジニーに関連して。“女性としてのエンパワーメント”と“スーパーヒーローとしてのエンパワーメント”を重ねるやり方は新しくはないけどやっぱり秀逸ですね。さらに、両者のディスエンパワーメントまで重ねちゃってさ(抑制装置)。上手いなぁ。

・ID開示したヒーローの苦悩が描かれてるのも良し。もちろんその苦悩にもいろいろ種類はありますけど、シー・ハルクの場合、“承認”が問題になってるかなと。承認されるシー・ハルクvs.承認されないジェン。IDを開示してない場合には、ヒーローライフとプライベートライフの境界があるから、“承認と非承認の分離”に“自己の分離”を対応させて耐えることができるんですけど。開示したらこの境界がほとんど消滅するわけですよ。だって、「シー・ハルク=ジェン」の方程式が公私ともに成立してるからね。
同一の存在なのに、片方は承認され、もう片方は拒絶される。他人にとって好ましい側面ばかり承認され、そうでない側面が承認されないことの辛さよ。誰も本当の私を見てくれてないってね。でも彼女の場合、ジェンを承認しないのは誰かというと、職場の上司とデート相手の男どもだけなんですよね。彼女には、「シー・ハルク=ジェン」としての彼女を承認してくれるとても良い家族や仲間たちがいる。だから問題は、自己の分離というよりは、資本消費社会とか家父長制の方にあるとも言えるのかな。

・第四の壁をどう考えましょうかね……。困った。僕は第四の壁を超えることに関してはかなり慎重派です。というのも、僕にとって理想的な芸術の条件は“ひとつの独立した世界であること”なので、第四の壁を超えると原理的にその理想から遠のいてしまうから。(ただ、第四の壁を超えることに伝統性やメリットがあることは認めます。)ここまでは芸術一般に関しての話。
しかし、MCUだからこそ生じる問題があって。それはデッドプールの存在。第四の壁を超えることが彼の最大の特異性のはずなのに、シー・ハルクがこれやっちゃったら“キャラ被り”しますやん。

・最終話も問題ですなぁ。要らなかった気もしますが、最近のMCUみたくありきたりなドラマを作るくらいなら、これくらい過激なことしてもらったほうが観る側としては刺激になって良いかな。最近のMCUは刺激が無さすぎました。

久方ぶりにワクワクしながら観させてもらいました。
鑑賞者

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