みや

おやじの背中のみやのネタバレレビュー・内容・結末

おやじの背中(2014年製作のドラマ)
3.6

このレビューはネタバレを含みます

第2話「ウエディング・マッチ」
【私の夢はあなたの夢】

10名の脚本家がそれぞれ一組の親子の交流を描いた一話完結のオムニバスホームドラマ。

元ボクサーの父・青木草輔(役所広司)によって三歳の頃からグローブを握らされてきた誠(満島ひかり)。

色恋沙汰は許されず、厳格な食事制限を課され、更には母に出て行かれても、誠がボクシングを辞めることはなかった。

オリンピックに出場することが二人の夢で、ボクシングこそが二人の全てだった。

しかし、オリンピック出場選手を選考する重要な試合で全く歯が立たなかった誠は、母との取り決めでついにボクシングを辞めさせられる。

その一年後、結婚式前日に誠は父のジムを訪ねるが、お互いの心中を吐露するうちにあの頃の記憶が蘇ってきて……。

草輔
「ある時、夏場に電気毛布届いたことあって、なんだって言ったらクロスワードパズルの懸賞で当たったって。そういえば俺と誠がジムにいる間、お母さんよく部屋で書き物してた。あれかって。俺とお前がジムにいる間、お母さんクロスワードパズルやってた。もうびっくりしたよ。お母さん出て行っても何も困らなかったもんな。お前、追いかけて行くかと思ったら、また次の日5時から走ってたもんな。ボクシング辞めるかと思ったらコンニャク食ってたもんな。お父さん、嬉しくて嬉しくて」

「うるさい、おっさん。うるさいな、もう」
草輔
「その日お前、良いジャブ打ったんだぞ。雷みたいなジャブだった。前へ前へ。ジャブジャブ。踏み込んでワンツー。パーン。お父さんお前の良いのもらって倒れて、お父さんこのまま死ねたらって思ってた。あのまま死ねたらお父さん、幸せだった。良い負けだ。これは良い負けだ。お父さんやっと負けられるって。あのノックアウトはお父さんの宝物だ。出て行くんならあの時出て行けば良かったんだ。あれが最後の辞め時だったんだ。今更何を辞める。ここまで来て、辞められるか! 誠、オリンピック行こう。お父さんと金メダル目指そう!」

母の不在を描いている点においてはこれまでの坂元作品によく見られた設定だが、父と娘の親子ドラマであり、師弟物語でもあるという点は目新しい。

娘にボクサーとしての才能がないと気付きながら、それでも支え続ける父の眼差しは温かく、またそのような父の背中を見て育ってきた娘は実にたくましい人物として描かれる。

誠の結婚を懸けた草輔との「ウエディング・マッチ」は、式前日にもかかわらず手加減なしで顔面や腹部を殴り合う真剣勝負が繰り広げられる。

二人だけの至高の時間は誠を迎えに来た婚約相手であっても止めることはできない。

最終的に完璧なジャブで草輔をノックダウンすることに成功した誠だが、翌日の朝から走り込みを再開し、第二のボクシング人生が始まるという感動の結末で物語は締めくくられる。

決して他人には踏み込めない親子の固い絆と共に歩んだ特別な時間の尊さを描き出した作品であった。
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