このレビューはネタバレを含みます
淡々としてるのに、次々に事がおこる。惹き込まれた。
着々と負のスパイラルができていくプロット技が冴えてるし、ときどき鳴る虚し〜い雰囲気のカントリーフォークが西部劇みたいなムードも醸して荒涼とした作品世界とマッチしてたと思う。
従来のノワールではモブになりそうなキャラにフォーカスした着眼点がおもしろかったし、目先の欲で一旦足を踏み入れてから沼が深まる展開は、「ハラハラドキドキ」の急展開ではなく底がわからないのにズブズブと足元がぬかるんで沈む怖さがあった。
真に逃れられないのは「幸せ」を描けない罪悪感か、もしくは手にできていたはずの幸福に囚われるあまり、視野の狭窄が起こる男の浅はかさ。
また裏社会の家族的つながりの軽薄さや、妻がずっとしているガスライティングのキツさ。公権力警察の腐敗も同時に描きこんでいって、マクガフィンがあまりないので内容が濃くても観やすかった。
過度な盛り上げを慎重に避けたような演出で静寂系ノワールとでも言い表したい。コーエン兄弟の映画が好きな人にはおすすめ。
映像がきめ細かくて、ライティングによって絵画的なカットもあり。綺麗でした。ラストカットの信号の使い方とかうますぎ。
韓国ノワールで塩田が映るとオールドファンとしては「ニヤリ」です。
リア王やジキルとハイドといった文学からの引用もリンクが広がってよかった。
俳優陣も無駄なく演技巧者たちが作品のトーンを決めていて、またもや一匹狼のヤクザ・パクヒスンの哀愁漂う感じや、他作品では血気盛んな人物も演じてるチョンウの抑揚を抑えつつ、焦りから諦め、諦めから再起へ変化する堂々の主演ぶりも最高。
妻役ユンジンソは「オールドボーイ」高校生時代のユジテ（ユヨンソク）のあの姉です。
チェムソンは韓ドラ民はみんな知ってるし、サイコ役ばっかりのキムソンオ氏は粗野なヤクザでラリりながら傷をホッチキスするシーンうますぎてビビったわ。
で警察のネズミが今見てる美男堂の実行犯クテス（ウォンヒョンジュンさん）強面俳優のニューカマーでほか作品を掘りたい。梨泰院クラスに出てたらしいけどちょっと覚えてなかった。陰湿な雰囲気の極悪人がうまい。
派手な作品ではないですが、求心力あり。
じっとりとして陰の側面から登場人物たちの希求する陽の面を示唆するスタイルなので、余韻あと引く作品でした
