Marie

アガサ・クリスティー ABC殺人事件のMarieのレビュー・感想・評価

3.9
軽やかで屈託のない原作のポワロが好きであれば馴染めない作品かもしれない。事件を解決していく過程の外側に心理的あるいは社会的な奥行きがあることを、過剰装飾と捉えるか重厚と捉えるか、その好みによって評価が分かれると思う。私自身は、年老いて草臥れ、過去に葛藤するこのジョン・マルコヴィッチ版を、ポワロとして初めて好きになれた。彼を'ポワロ'と呼べるかどうかは甚だ疑問であったとしても。
ジョン・マルコヴィッチは立っているだけで十字架を背負っているし、主要キャスト陣の演技の緊張感も見事。
何より、あのラストシーンを迎えるためだけに全てがあったのだと感じられた。ドラマとしてもそうだったし、犯人が殺戮の果てに最も待ち望んだ時間であったという意味でも。狩る者と狩られる者の対峙というのはいつも避け難い誘惑と葛藤に満ちている。「深淵をのぞく時、深淵もまたこちらをのぞいているのだ」。
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