まぁや

山のトムさんのまぁやのレビュー・感想・評価

山のトムさん(2015年製作のドラマ)
3.5
児童文学『ノンちゃん雲に乗る』で知られる石居桃子は、第二次大戦終結後に、田舎で畑を開墾しながら生活を送っている。これはその時の実体験に基づいた話で、脚本は群ようこ。なんとも贅沢な作品。

石井桃子は、2008年に101歳で逝去されている。作中の人物たちの名前は、原作に忠実に使用されているのだろう。市川実日子がトキで、その娘がトシなど古めかしい。ある意味新鮮だ。

友人の親子と、高校に行かず、これからの生き方に迷いをもつ甥のアキラと4人が疑似家族となって、生活をしていくストーリー。

家族は近所の親切な夫婦の手助けを借りながら、田舎暮らしに順応している。ひょんなことから飼われることになったトムとの生活を通して、家族や近隣の人々との絆を描いていく物語。
トムは猫の名前。

彼らを安心して見ていられるのは、都会人の浮き足だった夢見がちな気配がないからだろう。田舎で生活することの本質をちゃんと知っていると感じた。

東京から編集者の女性がやってくるシーンは、その対比が大変分かりやすい。スーツにヒールの靴で登場するとこや、田舎暮らしに興味があると言いつつ、家にネズミが出ることを聞くやいなや食事の手を止め、すぐにホテルに帰ろうとする辺り。。あからさまに描いてるけど、これが真実だろう。

スーパーにいけば、何でも揃う便利な暮らし。いつしか、私たちは自分達が食している生命とは分断された別世界で生きるようになってしまった。

野菜は水耕栽培じゃないし、魚だって切り身で泳いでいる訳じゃない。。
肉だって、動物をとさつするところから始まる。
汚れた仕事は他人にやってもらって、綺麗なとこだけいただいてる。
細分化された世の中って、やっぱり歪みを生み出すと思う。

そしてもうひとつ。印象的だったのは、ヤギが脱走した事件の時の、アキラをとりまく周りの大人たちの対応。都会で暮らしても、田舎で暮らしても、逃げの姿勢で生きていくことはつまんないもんね。

アキラに強迫観念を植え付けることなく、本人を見守って、自然な形で導いてあげる大人たちの度量がいいなと思った。そして、その時のもたいまさこさんがすごくよかった。
何か訳ありな様子を察知して、何気なく関わっていける大人って素晴らしい。

人間のささやかな喜怒哀楽を、雄大な自然が包み込んでいる。

猫をひたすら愛でたり、美味しい食事の様子を鑑賞するだけでも成立する、優しくて素朴な作品だ。
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