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サンクチュアリ -聖域-のこんにちはのネタバレレビュー・内容・結末

サンクチュアリ -聖域-(2023年製作のドラマ)
3.2

このレビューはネタバレを含みます

俳優陣の役作りには感服したが、ストーリー面ではノットフォーミーだった。

まず登場人物に共感できない。
主人公の猿桜は、スポ根の王道である不良がスポーツの真髄に触れることで成長していくというキャラクターアーク。
しかし路上のポイ捨て、モノに当たる、真面目な人間を馬鹿にする、すぐに暴力に走るなど不良描写がシンプルに不快であり、それを顧みて更正するシーンなども特に描かれない。
セーブザキャットよろしく、実は心優しいなどのフォローもなく、ただただ見ていて悪い意味で心が痛くなる。
さらに、そんな素行不良の少年がなぜか先輩力士に目をかけられたり、女性に好かれたりするものだから、余計に共感できない。

記者の国嶋も、最初は帰国子女の故の現代的な倫理観を持つキャラクターだったが、それも中盤以降は見る影もなく、ただの女子マネ的な立ち位置へと収まる。
当社は相撲の古くさい伝統を変えたいという意志を持っていたが、気づけば迎合しているため、門外漢だからこそ感じる俯瞰視点はいつのまにかなくなり、彼女が本来最も嫌っていた「郷に入っては郷に従え」を地でいっている。
ハラスメントや女性の権利を主張するのであれば、猿桜のような素行の悪い人間こそ彼女の敵ではないのか?
「古くさい伝統に切り込んでいく現代的な女性を出しました」というポーズを取るためだけのキャラクターであり、最終的には女性は男性のサポートをする、男性のために文字通りひざまずく…….といった古くささの局地のようなキャラクターだった。

ホステス・七海についても謎。
財布を盗んだり、キスを拒否するような「猿桜を利用して金を搾り取ろうとする悪女」かと思えば、長く付き合い続け、入院中にはお見舞いに行ったり、場所には観戦に赴く。
「金目当てで近づいたが、次第に心が動かされた」のであれば、彼女の精神的な成長や内面的な変化を描くべきではないか?

その他にも、威勢はいいが何もしない猿将親方、尺を使った割に特に活躍しないフリー記者など気になるキャラクターを挙げればキリがない。

またラストシーンについて。
この物語はただの不良だった小瀬が力士・猿桜になるまでの物語。
故に重要なのは静内との決着ではなく、そこに至るプロセスが重要……なのはわかる。
ただ、そうであれば長々と語られた静内の物語は必要だろうか?
ライバルのバックボーンを丁寧に描くのであれば主人公との決着が重要であり、そうでなければただの「若手最強力士」でよかったのではないだろうか?

この他にも、七海の卒アル、龍谷親方の謎の宗教、龍貴の物語……など主人公が関与しない物語があまりに多く、その全てがまともに回収されないことにモヤモヤする。

最後に猿桜の成長についても一過言ある。
成長の前に一度どん底に落ちるのは必要なプロセスではあるが、要因が多すぎてボヤけている。
力士としての敗北、女性からの裏切り、PTSDの発祥、部屋からの解雇など問題が大挙するが、結局猿桜は何に思い悩み、どう成長したのかが恐らくあえてぼかされている。
これは視聴者に都合のいい解釈を取らせるための戦略かもしれないが、悩みの軸が多すぎるせいで共感できず、また母からの叱咤で立ち直るというのも何で悩んでいるかわからないためイマイチピンとこない。
「何となく辛いことをたくさん与えて悩ませた」「何となく母が叱咤激励すればきっと立ち直るだろう」という甘い考えが透けて見えた。恐らく製作陣に「このとき猿桜は何に悩んでいた?何を学び、どう成長した?」という質問を投げかけても、口を揃えた回答は期待できないだろう。

総じて、俳優陣の役作りは素晴らしいがキャラクターアークとプロットの作り込みが甘いという感想だった。
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