ヴェスパー

めぐりあう時間たちのヴェスパーのレビュー・感想・評価

めぐりあう時間たち(2002年製作の映画)
4.8
非常に難解で理解しきれないのだが素晴らしい作品。
劇中の脇役が、リチャード(エイズ患者で鬱病の小説家)の作品が『難解』(執筆に10年かかった)だと言っているがリチャードはきっとこの映画のような物語を書いたのかもしれない、なんて思った。
リチャードは詩人でもあるので、前半の彼とクラリッサ(メリル)の彼の部屋での会話はそれこそ難解で感覚的で素晴らしい。

やはり芸術家は感性が研ぎ澄まされすぎて病みやすい。彼ら(性的マイノリティも)を愛する者たちは彼らに纏う『死』の空気を察知して大きな大きな胸騒ぎを覚える。そしてさらにその知人たちは元気そうに見える彼女達に「大丈夫?」と訊く。

ローラ(ジュリアンムーア)の、不妊で悩む友人は「母になることこそ女の証し」と言うが、ローラにとっては「結婚は‘死’(結婚生活は耐え難い苦痛であり無理に継続すると私は死ぬ)」であるのだ。この時代(1950年代アメリカ)に『性的マイノリティ』や『独身』というのは世間体的に許されないのであろう、道を外れないように女としてのスタンダードを演じてきたが崩壊寸前だった。
『幸せ』とは本当に人それぞれなんだ…。

鬱病の作家・ヴァージニア・ウルフを演じるニコール(本人に顔を似せている)の視線の演技、ジュリアン・ムーアの苦悩の演技がとてつもなかった。
この映画は何度も観れてしまう。