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ハケンアニメ!の速のネタバレレビュー・内容・結末

ハケンアニメ!(2022年製作の映画)
4.7

このレビューはネタバレを含みます

個人的には、チームお仕事ものの映画は安定して面白い割に圧倒的な作品が出にくいという印象だ。
・メンバーがそれぞれの役割を果たす
・結果、素晴らしい仕事が果たされる
この二つの展開があらかじめわかっているため、ストーリーは期待どおりに進み、期待を超えない。

だから、「ハケンアニメ!」を観て、感動している自分にまず驚いた。
なぜ、「ハケンアニメ!」は、面白いのか?
それは、お仕事もの映画に、バランスの取れた批評性を取り込んだからだ。

まず、この映画はアニメ制作の現場が舞台だ。それゆえに、アニメを好きな人から、現代のアニメの風潮への批評がある。序盤、王子監督が、アニメの大衆化について、通り一遍の言葉を否定する部分だ。

しかし、この映画の白眉は、役所の担当が「リア充」という自分に向けられた言葉を、「リアルしか充実していない薄っぺらいやつ」という意味だと勘違いして、つらそうにする場面だ。

リアル側の公務員が、アニメ側のアニメーターに対して勘違いを示す場面だが、滑稽ながらも歩み寄りができるいいシーンだ。

そして、いいシーンであるだけにとどまらず、厳しい批評性を持っている。「リア充」という言葉を使う側は、「薄っぺらいやつ」という偏見を、いつのまにかリアル側になすりつけていたのではないか?

他にもいいシーンがある。いかにもドライそうなプロデューサーをかばって主人公が激昂したとき、そのプロデューサー自身があらわれて、主人公に「(激昂したその相手が宣伝に付き添ってくれていたことに)お礼を言いましたか?」と言う。言っていなかった主人公は、頭を下げる。

少し無神経なスタッフも確かにプラスの仕事をしていて、お礼を言われるに足るプレーヤーである。クリエーターたる監督の信念のみを絶体正義として奉仕させるのではないところに、この映画の冷静さがあり、その細部は、お仕事映画の本分を全うすることで、かえって小さな意外性を生み出す。
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